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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 19

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「……あたし、胸、にも自信あるの、よ? ……って何を考えてるんですか!?」
 これから激しい修行が始まるというのに、ヒナはまるで関係ない考えをしているのを読み、イワンは赤面した。
 ヒナは両肘を持つ、特有な腕の組み方をし、自身の胸を強調した。
「どうやら繋がったようね。それにしても可愛いわね、イワン。そんなに照れちゃって」
 イワンの赤面はよりひどくなる。
「真面目にやってくださいよ! そんな淫らな事考えてないで……!」
 ヒナはいつの間にかイワンの背後に回っていた。イワンが驚いて思わず電撃の光輪を消してしまった瞬間、ヒナは後ろから抱きつき、その豊満なものをイワンの背中に押し付けた。
 イワンは、経験した事のない感触に、目を丸くした。
「どうかしら?」
 ヒナは更に押し付けてくる。
 イワンは心底、気色の良さを感じてしまっていたが、修行再開のため、身をよじって、幸福感のある拘束から脱出を試みた。
「……全く! 何がどう、ですか!? 修行中にふしだらすぎますよ!」
 まだ顔を紅潮させながら、イワンは何を考えているのか、と吐き捨てた。
「心を読む方が、心を乱してどうするのよ」
 ヒナの唐突なる行動は、イワンの鍛錬に結び付くものであったらしい。
「さっきは後ろからあたしの胸を押し付けるだけだったけど、もし、抜刀されてたらどうするの? 間違いなくバッサリやられてるわよ」
 イワンは言葉に詰まった。
 ヒナの起こした行動こそ、一見修行とは程遠いものであったが、発言は的を射ている。
 イワンの練習するエナジーは、相手の脳と自分の脳とを繋ぎ、思考の根元から相手の考えを読む、というものである。
 シンと対峙した際は、膨大な思考の量を送り込まれた事により、対処しきれず倒されてしまったが、今は、ヒナの突拍子もない思考によって、イワンが考えるのを止めてしまっていた。
「イワン、あたしの眼に映る、あなたの力は、間違いなく強烈なものよ。だけど、シンが言ってたらしいけど、強力でもあるし脆弱でもある、まさに諸刃の剣。イワン、あなたのその力を強いものにするのか、弱いものにするのかは、あなたの心次第。乱れた瞬間、とたんに弱くなるって事は覚えておきなさい」
 ヒナの翡翠色の瞳には、イワンでもまだ把握し切れていない所まで映っていた。
「わ、分かりました……」
 イワンはようやく声を発することができた。ヒナの読みは、心を読めるイワン並みに的確で、理にかなったものだったのだ。
「うん、分かればよろしい!」
 ヒナの翡翠色の鋭い目つきは、再びどこかおどけたものに戻る。それは、顔を見ただけでは考えていることが見えない。
「さあ、修行の続きをしましょう。イワン、『ブレイン・コネクト』よ」
 はい、イワンが返事すると、指先にエナジーを集め、ヒナに向けて光線を放った。
『ブレイン・コネクト!』
 光線はヒナの額に当たり、同時にイワンは、体に電撃の光輪を纏う。
「それじゃあ、始めましょうか。さて、あたしに惑わされずにいられるかしら……」
 イワンはさっそく、頭の中に流れ込んできたヒナの考えを読み上げた。今回は場にあった、普通の考えがである。
 左から回り込んで、後ろから突く。イワンの読み取ったものは、ヒナの攻め手であるように思えた。しかし。
「この体位が好きかも、ってまたですか!」
 イワンはヒナの、性的な思考に堪えきれず、また反応してしまう。
「はい、またやっちゃったわね!」
 ヒナは縮地法にて、イワンの背後を取り、刀の柄でイワンの背中をつついた。
 イワンは見事に、ヒナの変な考えに惑わされてしまった。
「……どうしてそう、妙なことを考えるんですか!?」
 ヒナは柄先をイワンの背中に付けたまま答える。
「簡単な理由よ。イワン、あなた、女の子みたいな顔してるけど、年頃の男の子でしょ? そういう子を惑わすには、ちょっとアレな事をぶつけるのが一番なのよ」
 くっ、とイワンは言葉に詰まってしまう。
 確かにイワンは、十五歳の健全な少年である。ヒナの言うとおり、そろそろそんな欲も出て来てしまう歳である。
 では、どうすれば、ヒナの淫らでふしだらな思考に惑わされずにすむのか。
「あたしとしてみる?」
 イワンは一瞬頭が真っ白になった。そして少しの空白の後、彼は大慌てで言葉を紡ぐ。
「か、からかうのもいい加減にしてくださいよ!」
「あら、あたしは割と本気よ。シンとは、あの子が十二歳になるまで一緒の布団で寝てたし、イワンのような可愛い子を見ると、つい抱きしめたくなっちゃうのよ」
 ヒナの母性は、まさしく特殊な、異性への愛情へと代わっていた。
「これも修行だと思って、どう……?」
 ヒナは再びイワンを後ろから抱きしめ、胸を押し付けてきた。しかも今度は、耳元への色っぽい囁きのおまけ付きである。
「ダメ、です……、こんな、所で……」
 イワンもそろそろ骨抜きになりつつあった。できればこのまま、ヒナに身をゆだねたい気分である。
 その時、イワンの脳内にとてつもない殺意が流れ込んできた。
 いつの間かイワンから盗んでいた刀で、ヒナはイワンの首をかっ斬る、という思考が流れ込んできたのである。
「離れてください!」
 イワンは叫び、電撃の光輪を出現させ、イワンに接するヒナを弾き飛ばした。
「おっと!」
 ヒナは電撃をまともに受ける前に、イワンから離れた。
「はあ、はあ……」
 イワンは反射的に電撃を放ったが、驚きのあまりに息を乱していた。
 危うくヒナの思惑通り、首を飛ばされるところであった。そう考える頃、イワンの心臓ははちきれんばかりに鼓動した。
「結構誘惑して、ふにゃふにゃにした後だったから、隙だらけかと思ったら、なかなかやるじゃないイワン。思考を繋げ続けていたなんてね」
 そこにはもう、色香に満ちたヒナは存在していなかった。
 そこにいるのは、殺意の思考を携えた、剣士であるヒナだった。
「ふうん……」
 ヒナは何かに納得し、イワンから奪った刀を放った。刀は、イワンのそばの地面に突き刺さる。
 イワンはヒナから目を離さずに、刀を拾い上げた。
「どうやら、反射神経はなかなかいいみたいね。あたしのお色気攻撃にやられても、技の起こりを読めるんだからね……」
 ヒナは腕組みをし、あーでもない、こーでもないと、思案に耽っている。『ブレイン・コネクト』はまだ効力を発揮しているため、イワンにはヒナの思案が頭に流れ込んでいたが、その内容の意図までは理解できなかった。
 しかし、敵意は感じられない。攻め手を考えているのではなく、本当に何かをじっくりと考えているらしかった。
 何かを考えているだけのようであったが、イワンはエナジーを途切れさせなかった。その瞬間に斬りかかって来るのではないかという可能性があったからだ。
「……よしっ!」
 ヒナは何かに納得したように手を打った。思いの外大声であったので、イワンがエナジーを止めてしまうばかりでなく、周囲にて修行に励んでいたロビン達も動きを止めてしまった。
「ああ、ごめんなさい! あたしのことだから、気にしないで続けてて」
 たくさんの視線を受けたが、ヒナは、両手を振って何でもないと伝えた。