遥かなる呼び声
何言ってるんだコイツ、という眼でジタンがバッツを睨んだ。心情を表すように尻尾がぴこぴこと揺れている。ジタンなりに、バッツの言葉の意味を探っているのだろう。やがてジタンが導き出した答えは、いかにも彼らしい修辞に溢れていた。
「……お姫様じゃねえの?」
ジタンがぴっと親指で指し示したその先の遠くには、朝露に濡れた花にも似た少女の姿があった。後ろを振り返りもしない少年が、彼女の元へとまっすぐ向かっている。
「ちっちっち、違うんだなー」
「ええー、だって向こうにティナいるじゃん! お姫様だろ、どう考えても」
「違ぁーうよ! 風だって!」
「何でだよー、お姫様だろ!? 判ってないなあバッツ!」
「判ってないのはジタンだって! 風なんだよ、風が呼んでるんだよ!!」
双方まるで譲らない。ぎゃあぎゃあと騒がしい二人を尻目に、スコールは小さくため息をつく。遠くには、小さくともそれと判る赤の姿が二つ、仲良く並んでいるのが見えた。これはジタンの言うことが正解かもしれない……そう思わなくもなかったが、これも結局口にはしなかった。
空を見上げる。そこには何もない。いや、なくもないがあるのは雲だけだ。掴めそうで、掴めない不確かなもの。綿菓子めいた白い影に隠れて、浮島に似た姿が見えたように思ったが――それもやはり雲だったのだろう。
ほとんど直角をなすようにして、蒼を見る。吸い込まれそうな空の中、雲がゆったりと風に流れていくのを、スコールはしばしの間見つめていた。
END