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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~四重奏~

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「ああ。さっき、間違えて迦遊羅をかゆ、で止めて呼んでしまったんだ。
でも、それって結構かわいいから今度からそう呼ばせてもらうことにしたんだ」
遼がうれしそうに言う。
そうか、と当麻も言う。
「かわいい呼び名だな。俺達もかゆと呼んで言いか?」
ええ、と迦遊羅は別に気にも止めないで答える。
「サンキュ。迦遊羅・・・じゃない、かゆが許してくれたぞ」
その言葉に迦遊羅は驚き、亜由美が反射的に顔を上げる。
「私はまだ許して差し上げるとは・・・っ」
「だが、愛称で呼ぶのを許したと言うのは許したのと同じだと思うが?」
「計りましたね。当麻」
迦遊羅がむっとして言う。
「名をどう呼ぶかどうかはともかく、姉様から言葉を聞かない限りは許して差し上げ・・・」
「ごめんなさいっ」
迦遊羅が言い終わらないうちに亜由美は声あげていた。
「ごめんなさい。やっぱり、迦遊羅の言う通りで当麻は誰のものでもなくて当麻自身のものだよね。
それなのに譲るとか譲らないとか言って悪かったと思う。それに迦遊羅だって好きな人を譲ってやるとか言われたら
すっごく嫌だよね。もう言わないから。私、覚醒してからずっと、今もずっと頭の中がごちゃごちゃなの。
だから、ちゃんとした判断が下せない。だから、きっとまた皆を困らせるし、傷つけると思う。
でも本当にどうしたらいいのかわからない」
あがった顔がうつむき、段々声が小さくなる。
迦遊羅は必死に言葉をつむぐ、姉の姿に心痛めた。
実年齢は自分より年上だと言うのに、その様子はとても幼い子供のようだった。
それなのにその声も瞳も言葉を失ってしまうほど苦渋に満ちている。
この人はもう十分過ぎるほど苦しんでいる。それなのにどうしてこれほど苦しまないと行けないのだろう?
「許して差し上げます。だけど、二つだけ条件があります」
亜由美の顔がまた上がった。迦遊羅が微笑む。
「これからは迦遊羅ではなく、かゆと呼んでください。この呼び名、とても気に入っているんですの。
それから、私、もう当麻のことは思いきりましたからその事を承知してくださいますわね? 
安心してくださいな。これからは遼が側にいてくれますから」
迦遊羅がうれしそうに遼を見る。
その言葉に亜由美は声を詰まらせた。
「ごめん。ごめんなさい。ごめんねぇ・・・」
止まっていた涙がまたあふれる。
両手で顔を覆って泣き崩れる。
そしてただひたすら謝り続ける。
どうしてこんなにこの人達はやさしいのだろう。
こんなに残酷な自分なのに。
どうしたら彼らの気持ちに上手にこたえられるのだろう?
どうしたら悲しませずにいられるのだろう?
疑問は涌き出るのに答えは全然見えない。
ただ、思う。
やはり、私はこの人達の前に立つ資格はない。
こんな考えを持っていたらきっと当麻も迦遊羅も激怒するだろう。
でも、もう自分でもどうしようもなかった。
彼らを悲しませるのはわかっている。
でも、この方法しか彼らを守って大事にする方法が思い浮かばない。
それに、人の気持ちも記憶も移ろいやすいもの。
こんな嫌なちっぽけな人間のことなど皆、すぐに忘れてしまうだろう。
だから、手遅れにならない内に姿を消そう。自分との関わりを絶ってしまおう。
亜由美はそう心に決めた。