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レイニーブルー

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考えに沈んでいると、くすりと小さな笑い声とともに、神無のボックスにケーキが一つ増えた。きょとんとして桃子を見詰めると、仕方がなさそうに桃子は首を傾げた。
「本当は木籐先輩だけに渡すのが良いと思うんだけどね」
じゃあボクも、と水羽がケーキを一つ移し替えた。
「ボクには渡さなくて良いよ。神無と一緒に作ったケーキがあるから」
「え……あの、でも」
戸惑う神無に桃子は眉を顰めてみせる。はっと不安そうに顔を曇らせた神無に、桃子は束の間奇妙な表情になる。それを神無が不思議そうに見つめると、桃子は苦笑を浮かべた。
「ありがとうって言っておけば良いの。それとも有難迷惑?」
神無が首を横に振った。迷惑だなんてとんでもないことだった。神無は物事を決定するのが苦手だった。どんな決定も全て災厄に繋がっているような気がして、何もできなかった。世界に怯えて、諦めて立ち竦む自分が疎まれるのは当然のことだった。それなのに桃子は神無の頑なな外界との接触の忌避をきにすることなく、手を差し伸べてくれた。根気強く神無に語りかけてくれた。
そんな人はこれまでいなかったから、神無はある日訊ねずにはいられなかった。
「なんで土佐塚さんは私なんかにそんなに良くしてくれるの?」
きゅっと桃子の眉根が寄る。不快にさせてしまったかと神無がうろたえると、桃子は表情を和らげた。
「こういうのは理由じゃないでしょ」
言って、桃子はふと表情を硬くした。神無はそれには気付かず、顎に手を当てた。
「こういうの」
「……友人関係とか」
桃子の言葉に神無は目を丸くした。ぽかんと桃子を見詰める神無の視線に、桃子はちょっと落ち着かなさそうな素振りをしてから、あーもう、と勢いよく神無の手を掴んだ。
「ほら、行くよ。神無」
背を向けて神無の手を引っ張る桃子の顔はほんのり赤かった。神無の手を握る桃子の手は柔らかく、握り返しても良いのだろうか、とちょっと怯えて、彼女の手の暖かさに勇気づけられるようにそっと指に力を込めた。その時のくすぐったいような嬉しいような感覚は、桃子に名前を呼ばれる度に蘇る。
いつも神無の手を引いてくれる桃子は多少強引な所もあったけれど、その強引さが彼女と自分とを結び付けてくれたのだと分かっていたから、気にならない。ボックスに増えたケーキも、確かに解決案としては有効で、だから神無は桃子の言われるがまま、素直に微笑んだ。
「ありがとう」


作品名:レイニーブルー 作家名:萱野