二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
さらさらみさ
さらさらみさ
novelistID. 1747
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

恋のゼクドナルセン

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
 


ビュッデヒュッケ城中庭に立ち並ぶ店は現在、宿屋、占い、宝くじ、紋章屋、札屋(兼恋愛指南所・最近はこっちがメインらしい)、鑑定屋、道具屋の計7つ。
そこに、新しい店舗が加わった。
その名も「ゼクドナルセン」。
疾風の如く迅速なサービス提供を心がける文字通りファーストフード店だ。

「いらっしゃいませ。ゼクドナルセンへようこそ」
店へ入るなり某骨董洋菓子店のような店員の挨拶が客を迎える。客層は圧倒的に女性が多かった。というのも。
「ご注文は?」
レジの前の店員に客はこう言う。
「ス、スマイルください!」
「かしこまりました、お客様」
「スマイル」はこの店の人気商品の一つだ。この店員のスマイルを見たいがためにわざわざ遠く離れたブラス城から通う客も多かった。ちなみにこの「ゼクドナルセン」、材料を提供してくれるバーツの畑の関係でフライドポテトとオレンジジュースしかメニューがない。だが笑顔の付加効果で「ご一緒にポテトもいかがですか」などと勧められると客は「ください!」といわざるを得なくなるのだった。

 

そんなわけで、「ゼクドナルセン」の売上げは今日も好調だった。
「今日も目標金額突破だ。なかなかやるな、俺も」
店長兼店員のパーシヴァルは札を数えながら一人笑う。

この店を任されたのはクリスの一存だった。
ある日、クリスはトーマスに相談を受けた。
「クリス様が炎の英雄になられたおかげでこの城も随分活気が出てきたんですが、ひとつ問題があるんです」
「というと?」
「飲食施設が充実していないんですよ」
宿屋を運営しているセバスチャンが現在食事を作っているが限度があった。たまにセバスチャンが過労で倒れるとセシルがかわりに担当したりしているが、彼女の作った料理はどれもこれも辛すぎて客に出せるものではないのだった。
「何かみんなが気軽に立ち寄れるレストランみたいなところがあればいいんですけど…」
と言うトーマスにクリスは言った。
「まかせておけ。うちの騎士団の連中になんとかさせよう」
こうして会議が開かれ、料理ができ、接客業もでき、かつ客のウケもよさそうな店長としてパーシヴァルが抜擢されたのだった。勿論戸惑うパーシヴァル。
「ちょっと待ってください。その間今の仕事はどうするんですか?」
「今はどうせすることもないし城の警備は他の連中でもできる。何よりその人当たりだけはいいお前なら接客業は得意技だろう。ここに100均で買った店舗経営のノウハウがあるから一晩で読んで学んでこい。開店はあさってだ。なに、この城に他にいいかんじの飲食店ができるまでの辛抱だ。頼むぞ」
こうして有無を言わさずパーシヴァルはしばらくの間ファーストフード店の店長をつとめる事となったのだった。

 

「それにしてもそろそろ忙しくなってきたな…手伝いが必要だが…」
現在厨房に入っているルイスとボルスはまず無理だ。ルイスはレジに入ってくれと言うなりボルスと離れたくないと泣くだろう。ボルスはボルスでプライドが高く、客に頭を下げるなどとんでもない、それなら厨房に入っているほうがましだと最初からレジは拒否された。あとは暇そうなレオ殿とロランだが、レオ殿がレジで接客など似合いそうもないしロランは個人的に自分のプライドが傷つきそうなのでできることなら雇いたくはない。何故ならロランはそのモデルなみな長い脚と神秘的な容貌でゼクセン女性から多数人気を集めているのだ。しかも、パーシヴァルのように笑ったり話したりしないのにである。


結局考えた末パーシヴァルはバイトを募集することにした。前髪に墨汁をつけ、大きな紙にデカデカと
「バイト募集。時給待遇要相談。君は小宇宙を感じたことがあるか?」としたためて、店の入り口に貼った。
「フッ…これでよし」
パーシヴァルは満足そうに微笑み、自分の部屋へ帰っていった。

 

翌日、「ゼクドナルセン」にはバイトを希望者たちが次々と訪れては去っていった。
面接室ではパーシヴァルが疲れた顔をしている。
「このジャックを使ってほしいんだが」
「…はあ。それで何故ゲ殿がご一緒されてるんですか?」
面接13番・ジャック…の連れのゲドは得意げに口の端を上げた。
「ほう。まずはそこから聞きたいか。俺とジャックの出会いはハルモニアの南部でー…」
「そんなこと訊いてるんじゃない!はい、次!!」

次に入ってきたのは鼻めがねで目鼻立ちを隠した赤毛の男。
「最初に質問がある。その口で喋れ」
「…はあ」
「この田舎ファーストフード店に俺と同じ赤毛のちょっと垂れ目で華奢な体の、8文字で言うなら折れてしまいそう、そんな客はよく来るか?」
「いえ、お客様の顔全てを把握し切れてはおりませんので…ですがあなたの言うお客様でしたらよく中庭で武術指南師と昼寝をしてますよ」
それを聞いた赤毛の男の立派な眉毛がつり上がった。
「あ…あのような田舎武術指南師と…!」
「いや、ほんとにただ寝てるだけなんですが…それより面接…」
「そんなことをしている時と場合じゃない。やるべきことが多いので俺はこれで失礼する!!」
そう言うと男は長ったらしいコートを翻して部屋を出て行ってしまった。

 

「ああ…疲れた…」
パーシヴァルはがっくりとテーブルににうつぶせになってしまう。
「お疲れ様です」
そこへルイスがコーヒーカップを携えて入ってきた。
「ああ。ありがとう」
「まだ決まらないのか?さっさと決めて楽になっちまえよ」と、同じくして部屋に来たボルスも言う。
「ああ。だが俺は決めてるんだ。どうせ働くなら一緒に働いて楽しい子がいい。そう、まるで春の風のような恋がしたい恋がしたい恋がしたい」
パーシヴァルは「バイトするならフロムエー」のCMのように、バイト先で恋が芽生える状況にひそかに憧れていたのだった。
「じゃあ客の中にいいのがいるだろ、多分」
ボルスにパーシヴァルはちっちっち、と人差し指を振った。
「そういう愛はねーうん、お金で買えるんだよねー。ボルー」
「…白鳥レイジ?」
今日のパーシヴァルは渡部篤郎特集だ。

 

休憩も終わり、次の面接希望者が戸を叩いた。
「どうぞー」
「あ、あの、失礼します…」
扉を開けて入ってきた人物に、パーシヴァルは思わずテーブルのコーヒーカップをたおしてしまった。
「うおわちゃあー!」
まさにドラゴン危機一髪のシャウトをかますパーシヴァル。
「だ、大丈夫ですか?」
面接希望の少年はパーシヴァルに駆け寄り、そばに膝をつく。
「すみません、俺のせいですよね。今拭きますから…」
「え?だ、大丈夫ですよ!」
こぼれた場所が場所なだけにパーシヴァルは断ったが、
「だめですよ、コーヒーはしみになりやすいから早く拭かないと!」
そう言って少年は「H」と刺繍されたハンカチを取り出してコーヒーの零れた場所を丹念に拭きだした。
「あれ?あの、やっぱり病院に行ったほうがいいのかな…拭いても拭いてもどんどん腫れていってるみたいだし…」
天然なのかわざとやっているのかよくわからないが、とにかくこのままだと理性が吹っ飛んでしまうと直感したパーシヴァルは仕切りなおすように少年に言った。
「いや、本当に大丈夫ですから。面接を始めましょうか、ね、面接!」
「え?は、はい」