恋のゼクドナルセン
短かい一週間だったが楽しかった。自分の中で一生思い出に残るだろう。休憩がてらコーヒーをいれ、薄暗い店内で一息ついていると、ドアが開いた。
「すみません、本日から当店は閉店…」
言いかけたパーシヴァルは驚きのあまり手に持っていたコーヒーをまたしても下半身にぶちまけそうになったがすんでのところで阻止した。
「ヒューゴ殿?」
雨の中急いで走ってきたのか、ずぶ濡れで息が上がっている。
ヒューゴはパーシヴァルに近寄り、懐から何かを取り出した。
「これ…」
パーシヴァルは不思議に思いながら、こげ茶色のリボンで包装されたオレンジ色の箱を受け取る。開けてみると中にシンプルなデザインのスカーフが入っていた。
「…前に、一緒に遠乗りに行って俺、怪我したでしょう?パーシヴァルさんが手当してくれた時に使ったスカーフ、返そうと思ったんですけど血がついちゃって洗っても取れなかったから、同じの買って返そうと思って、ゴードンさんに頼んで探してもらったんだ。
何年も前に出た柄はもう生産されてないから別のになっちゃって…」
そういえばそんなことがあったな、とパーシヴァルは思い出す。あの時は怪我が心配で気にも留めていなかったが、あのスカーフは確か初めてボーナスが出たときに喜び勇んで買ったものだった。
「じゃあ、これを買うためにバイトを…?」
ヒューゴは頷き、少し頬を染めて言った。
「…パーシヴァルさんのお店で働いて、パーシヴァルさんにあげたんじゃ、あんまり、意味ないかもしれないけど…」
パーシヴァルは返事をするかわりに、ヒューゴを引き寄せて抱き締めた。
「パ、パーシヴァルさん!濡れちゃいますよ!?」
「構いませんよ」
驚いて体を離そうとするヒューゴを抱く腕にパーシヴァルは更に強く力をこめる。
「そんなものは全部脱いで乾かしておけばいいんですから…」
半分本気、半分冗談で耳元で囁くと、意味が分かったのかヒューゴの顔がさっきよりももっと赤くなる。
ヒューゴが腕を背中に廻したことで感じられる鼓動はとても早かったが、もしかしたらそれはヒューゴのものではなく自分の鼓動かもしれなかった。
それからしばらく経ったある日、パーシヴァルはクリスから声をかけられた。
「実は、『ゼクドナルセン』をもういちどやってほしいという要望が目安箱に頻繁に来てるんだが…」
「うーん、それは難しいですね」
「何故だ?」
「だってわたしの笑顔はヒューゴ殿だけのものですから」
とパーシヴァルが真顔で言い、のちに公私混同するな!とクリスの雷が落ちたとかそうじゃないとか。
おしまい★