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さらさらみさ
さらさらみさ
novelistID. 1747
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ビューティーオブファシナトゥール

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その時である。窓の外に急に暗雲が立ち込め、禍禍しい空気が辺りを支配した。
「な、なんだ!?」
外に出てみると、暗雲が渦を巻き、その中心から何かがゆっくりと降下してきているようだ。ブルーには、その異物が何なのかすぐにわかった。

「ようやく見つけたよ、ブルー」
BGMはゴッド・ファーザーである。 仁王立ちになり、両腕を体の前で広げた、キャラクター立ち絵そのままのポーズで降下してきたのは、双子の弟のルージュだった。



審査が終わるまで、ステージでイルドゥンと共に「KROCKY&TSUBASA」という即席ユニットで「恋は愛の羽」というこれまた即席のポップソングを熱唱した後、ゾズマはようやく審査が終わった事を聞き、汗をきらきらさせながら観衆にアナウンスした。
「みんな、審査がようやく終わったよ!これから審査結果発表だ!!」
ステージに、最終審査を受けた5人が入場してくる。イルドゥンもそそくさと出場者がわに向かった。
会場は拍手に沸き立った。テレビの前の面々も息を飲む。「それでは発表します!!!栄光あるビューティーオブファシナトゥールに輝いたのはー…」
ドラムロールが鳴り、スポットライトが暗くなったステージを躍る。

やがて、その光は一人の妖魔に当たって動きを止めた。ライトに、眼鏡のレンズがきらりと反射する。

「エントリーナンバー13番、ヌサカーンさんだよ!!!!」

「おいおいおいおいおい!!!」
「ぬーべー先生ですかい!!!」
テレビを見ていたIRPO隊員はひっくり返った。コットンはわざとらしくため息をついて、巨体を揺らしながら捜査に行ってしまった。

「ヌサカーン先生は合計点133点のぶっちぎりだったそうだよ!どうかな、今の気分は?」
ゾズマにマイクを渡され、ヌサカーンは
「いや〜、美人コンテストって、ほんとにいいですね〜」とコメントした。
賞金は、リージョンを廻って留守にする間、クーロンの医院の維持費に充てるそうだ。今よりもさらに禍禍しい病院にする為の維持費である。
ヌサカーンはゾズマに尋ねた。
「ところで、もうひとついいかな?」
「なんだい?」
「実は、さっきのコンテストで、ブルー君がどうしても欲しくなってしまってねえ。賞金のついでに、もらっていくことにするよ。リージョン巡りはそれからだ」
うふふふふと不気味な含み笑いを残し、ヌサカーンはふっと消えた。そして再びヨークランドである。

 

「さあルージュ、俺と一緒に帰ろう」
「誰がルージュだ!俺がブルーだ!」
ルージュはブルーの変装をしたままである。後から出てきたリュートたちの前では、ブルーのふりをあくまで貫き通すつもりなのだ。
「一体どっちが本物なの…?」
エミリアたちにはわけがわからない。クーンが二人の足元を嗅ぎまわった。そして、本物のブルーを指差す。
「こっちが本物だよ!あっちは偽者…キャイン!!」
余計なことを言ったクーンは、ルージュに蹴られてしまった。恐ろしい目で睨まれ、服従のポーズをとっている。ルージュの演技はまだ続く。

「思い出してくれ、ルージュ。満天の星空の下、二人で約束したあの日の事を。お前は、一生兄さんから離れないとそう言ったじゃないか」
ふたたび、エミリアたちが声を上げた。ただし今度は「ブルージュきんも―っ☆」である。
「まとめるな!!」つい抗議してしまうブルー。

「まあ、それはいいんだ。とにかく、おままごとはもう終わりだよ」
口調がルージュに戻る。ルージュが呪文を唱える構えをとった時、いきなり次元が裂けた。
「今度はなんだあ?」
「おや、何ということだ!!ブルー君が二人もいるじゃあないか!!」
現れたのは、大会にエントリーしていた妖魔のひとりだった。
「生体反応は二人ともまるっきり同じか…しょうがない、二人まとめてもらっていこう」
ヌサカーンはそう言うやいなや、ブルーとルージュに吹き矢を発射した。突然のことで、二人は思いっきり吹き矢をまともに食らってしまった。
「か、体が動かん…!」
「貴様、何を…」
うめくルージュとブルーを小脇に抱え、ヌサカーンは「いや〜双子ってほんとにいいですね〜」と言いながら、あっさりとどこかに消えてしまった。

「・・・・・・」
あとに残された面々は、ぽかーんと口を開けているだけだった。
「ブルー、どうなっちゃうのかな…」
「さあなあ…でも、俺たちだけでも信じてやろうぜ。あれは…本当にブルーだったんだ」
「うん、そうだね…」
ようやく雲が晴れ、ヨークランドの暖かい日差しが、リュートたちの笑顔を明るく照らしていた。

 


サイレンスは壊れた「ペガス」の中に切り裂かれたサマースーツを入れ、片手に審査員特別賞を持ってシップに乗った。
特別賞は「時間妖魔のリージョン無期限ご招待券」だった。そんなリージョンは聞いた事もないが、道順が示されているあたり、存在はしているのだろう。
IRPOに帰ってドールたちにいびられる前に、サイレンスは一度そこに行ってみることにした。
サイレンスは、来年も大会にエントリーしようと決めた。紫のトケイソウの人にも、あの審査員の妖魔の君ー結局、最後まで名前はわからなかったーにも、また会えるかもしれないからだ。

ムスペルニブルでシップを降り、ヴァジュイールの宮殿から直接ルートがのびている。広間に行くと、つい先刻まであんなに皆が熱狂したB.O.Fで審査員をつとめたとは思えないほど退屈そうなヴァジュイールがくつろいでいた。
サイレンスがご招待券を見せると、ヴァジュイールは「ほう、あの堅物がな」とサイレンスには意味のわからないことを呟き、指を鳴らした。

次の瞬間、サイレンスは見慣れない空間にいた。満天の星空、というよりは宇宙空間のような空に星が瞬いている。石造りでドーリス式の回廊が上まで続き、あちこちに歯車やネジが規則正しく回転し、かちかちという音を刻んでいる。
どうやら、ここが招待されたリージョンのようだった。しかし、人影はどこにもない。

 

サイレンスは階段を上ってみた。最上階まで来て、その紅い瞳を瞠る。
回廊と広間を取り巻く柱に巻きつくようにして咲いている、トケイソウの花。花弁が歯車たちが刻む規則正しいリズムに合わせて自らも動いているようである。

そのトケイソウの向こうに、誰かがいるのが見えた。
その影はゆっくりと振り向く。

サイレンスは、手にしていたスーツケースを取り落とし、その人影に向かって急いだ。

 

終わり