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06:ひかりのひと

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 さっきまで出かけてて疲れたんなら、座ってろっての。オレが片付けしてやるから。

 そう言った正臣は、どこか辛そうに笑ったから、気を遣わせてしまったのだと気付いた。私が足を怪我したのは、別に正臣の所為じゃないのに。けれど、私はそれを口にしない。ありがと、まさおみ。私の足は、たしかに治ったのだけれど、入院中に筋肉が落ちてしまったから、正臣から見たら、折れそうに見えるのかもしれない。そんなに簡単に折れないよ、なんて、少し前に容易に折られてしまった足をひけらかしてもよいかと思ったのだけれど、流し台に立つ正臣の背中を見ているのが何故だか嬉しくて、うん、と頷いて見せた。今までなかった、日常の色だった。皿を洗う正臣の手は、私よりもずっと手慣れている。きっと、そう。

 私がこうやって物語のページを捲るのと同じように、もしかしたら太陽も、こうして一つ一つ、部屋の中をのぞいているのかもしれない。そう思ったのは、役に立たないカーテンの所為だ。カーテンの色は部屋の中が透けて見えないように濃いめの色を選んでいたけれど、廉価のカーテンは病院にあったものよりずっと薄くて、窓から入ってくる風になびいてばかり。そうやって出来た隙間から入ってくる日光は、本のページを真っ白に染めてしまう。本を閉じて、物語に身を寄せるのを止めてしまえば、耳に届くのは流しを勢いよく流れる水の音と、皿がこすれ合う音。それから電車の音に風の音。他にも音はどれだけだって溢れているけれど、やっぱり一番今の私にとって、馴染みがなくて、そして嬉しいと思えるのは、水の音だ。太陽と同じように、窓に背中を向けてみれば、視界には、シンクに向かう正臣がいる。水が流れて、皿同士がぶつかって、スポンジが泡を纏って。ただそれだけなのに、愛しい。フローリングと、水道の水とでは、いったいどっちが冷たいのだろう。空の太陽と、傍にいる人とでは、どっちが眩しいのだろう。そう思いながら、私は手を伸ばして、そっと窓を閉じた。カーテンが収束して、光の洪水が止む。そこで不思議そうに正臣が振り返る。なんでもないよ、ただ眩しかっただけ。光はひとつで十分なのです。


作品名:06:ひかりのひと 作家名:きり