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流れ星 4

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その時ノックの音がした。ユキが出ると南部だった。

  「現地到着まで3時間ほどかかります。私がコーヒーをお入れしましょう。
   …インスタントですが。」

手にはお茶菓子だろうか?何か箱を持っていた。

  「ちゃんと検疫しましたから大丈夫ですよ。」

ユキの視線が手に持っていた箱に注がれていたので南部がにっこり笑う。

  「あ、そのお店…。」

ユキがその箱に書いてあるお店の名前を見て指をさした。

  「朝、買って来たんです。時間がある事わかってましたから。」

その店の焼き菓子はとても人気で並ばないと買えないもののはず。

  「初めて“南部”の名前を使っちゃいましたよ。使えるものは使っておけ、って
   こういう事なんでしょうか?」

お湯が沸き、カップをみっつ並べるとインスタントコーヒーを作り“箱のままですみません”と南部がいいながらテーブルに並べた。

  「おいしいと評判だと聞きまして。」

藤堂も“誰から聞いた?”など無粋な事は聞かない。きれいにラッピングされた箱の中にきれいに並べられている焼き菓子はいい香りがしていた。

  「なかなか手に入らないバターを使っているそうですよ。」

南部の説明を聞くと藤堂がユキに目配せした。手をつけなさい、と。でもユキは上司である藤堂より先に手を出すわけにはいかない。

  「こういうのは女性の方が優先だ。ユキ、先に頂きなさい。」

藤堂の言葉にユキはちいさく“すみません”と言うとその焼き菓子を一つ手に取った。封を開けるとバターのいい香りがする。

  「いただきます。」

ユキが手に取ったのはマドレーヌだった。ふんわりとしながらもしっとりしていてたっぷり使ったバターのいい香りが口いっぱいに広がった。

  「おいしい…甘い。」

ユキの大きな瞳が更に大きくなる。

  「お口に合ってよかったです。長官もどうぞ、甘いもの食べられますか?
   こちらだと甘さも控えめですから…。」

南部は厚めに焼いたクッキーを藤堂にすすめた。








  「こんな何もない所にサーシァさんは飛んできてしまったんですね。」

火星の大地に近い所を飛ぶあさぎり。見渡す限り赤い大地が続いている。

  「地球までもう一息だったんですよね。」(南部)
  「この先の小さな訓練施設で古代と島がいた。その時南部も反対側の火星で
   太田と訓練だったな。」(藤堂)
  「はい、そうです。何のための訓練なんだろう?と思いながらふたりで毎日
   もくもくと過ごしていました。太田とは付き合いが長かったから一緒にいて
   苦になりませんでしたが他の連中だったら暴れてたかもしれません。太田は
   私が短気なのよく知っているので…今思うといいように使われてたような気も
   しますが…。古代と島、って組み合わせもちょっと危ない気もしますね。
   あのふたり、結構短気なんですよね。でもきっと兄気質の島だから大丈夫
   だったんでしょうね。」(南部)
  「戦闘班を率いる者と艦を動かす者が息が合わないと有事に乗り越えられないと
   いう事でタッグを組んで訓練させた。今の訓練生は最初から個室だ。
   しかしヤマトはプライベートな空間なんてほとんどない。上に立つ人間が
   最低限の事をクリアーしてくれないとあの航海は成功しないと思っていたから
   狭い空間、最小限のコミュニティで訓練したんだ。」

ユキは箱舟計画を思い出していた。確かに箱舟計画だったら小さなもめごとが命取りになりかねない。メインとなるクルーがそのちいさなもめ事を起こさないよう、起きても対処ができるよう潤滑油になるべく訓練をさせられていたんだ、と気付いた。

  「戦艦は限られた空間ですからね。ヤマトは見た目大きな戦艦ですが顔を合わ
   せるメンツも毎日同じで生活空間もずっと同じじゃストレスたまりますからね。
   明日は自分が生きられるのか…そんなストレスも一緒に抱えているんだから
   頭がおかしくなっちゃうクルーが出たっておかしくない…。」

実際、相原が少し混乱した時があったがクルーみんなで乗り越える事が出来た。

  「ヤマトとクルーがいればなんだって乗り越えられますよ。」

南部が胸を張って言った。



  (もし、ヤマトが地球に戻らない箱舟だったら…ひょっとしたら沖田艦長じゃ
   なかったかもしれない。真田さんは拒否してたって話だし。真田さんが乗らな
   かったら私も乗るのを拒否したかもしれないわ。拒否権があれば、の話だけど…。
   ifはないけれど箱舟だとしたら小さないざこざが本当に命取りになる可能性
   あるわよね。まず戦うか逃げるかで意見は真っ二つになってヤマト自体が
   崩壊してたかも…)



作品名:流れ星 4 作家名:kei