二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

英独(お題チャレンジ^^)

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
『攻めが酔っ払って、受けがキレる、エロティックかつドロドロな作品』と言うお題

登場人物

攻め=アーサー・カークランド
受け=ルートヴィッヒ

*普独前提英独*


*****************************************



「こんなところで何をしている。…アーサー・カークランド」

じっとりとした闇を堆積させた薄暗い部屋の奥、厚いカーテンで締め切られた窓を背後に背負ったデスクに蟠る、室内で最も濃い影に向かって、ルートヴィッヒは声をかけた。
室内の空気はどんよりと淀んで重苦しい。まるで今日の天気の原因が、全てこの部屋から漏れ出ているかのようだ。
ガラスとカーテンに遮られて音すらも聞こえないが、外は灰色の雨が容赦なく地面を叩いている。
この国は、雨が多い。雨が降らない時でも、空にはどんよりと重い雲がかかり、抜けるような青い空など年に数えるほどしか見ることは無い。
それが、国の体言であるこの人物のせいなのかどうかはわからない。
確かに、いつでも難しいしかめ面をして、他者を威嚇し、己の中へ踏み入らせまいとする様は青空を覆い隠す厚い雨雲に似ていると言えなくも無いが。

「…何の用だよ」

長い沈黙を経て、ようやくアーサーは口を開いた。
その途端、重い空気にねっとりと絡みつくようなアルコール臭が混ざる。
はああああ、と重い溜息を零すその乾いた唇からは、目に見えるような酒精が吐き出されていた。
その呼気にぴくりと眉を寄せながらも、ルートヴィッヒは口を開いた。

「何の用とはご挨拶だな。出立の準備が出来たので暇を乞いに来た。…世話になったな」

第二次世界大戦に敗れたルートヴィッヒが、唯一の肉親である兄と分かたれ、このアーサー・カークランドの元へやってきて幾月が経っただろう。
敗戦による大怪我も癒えぬうちに有無も言わさずここへ連れてこられ、半ば軟禁のような生活を送らされた初期の頃には、日にちを数えることも出来なかった。
傷が癒え、流石に公の場に顔を出さずにはいられなくなると軟禁は解けたが、それでもこの薄曇の空に覆われた国を出ることは叶わなかった。
それがあの敗戦において自分が支払わねばならぬツケだとは理解していても、不自由の身は厭わしく、それを強いるアーサーへの鬱憤が溜まるのを押さえることは難しい。
しかしアーサーはルートヴィッヒの処遇を一貫して事務的に取り扱ったため、溜まった鬱憤を晴らす機会は無く、重い石のようなしこりを抱えたまま、ルートヴィッヒもまた事務的にアーサーに対応するよう心がけていた。
先日ようやく自国への帰還が許され、その準備が整った今日、ようやくルートヴィッヒはアーサーと話をしたいと思った。思える余裕が出来た。
ようやく兄の元へ戻れるという安心感が大きかったせいかもしれない。
出立までそう時間があるわけでは無かった。
だが僅かな時間でもいいから、本心から話をし、心のつかえを全て取り除いてから帰国したいと、そう思ってルートヴィッヒは今まで一度も訪れたことが無かったアーサーの私室を訪れたのだった。

「世話に、ねえ…」

クッと引き攣るような声で笑って、アーサーはふらりと腰を上げた。
床を踏む足の動きが危うい。まるで夢の中を歩いているような足取りで、アーサーはルートヴィッヒにゆっくりと近づいていった。
その瞳もまた、酒に蕩けて夢を見ているかのようにぼんやりとしている。

「行くのか、ルートヴィッヒ…」

ゆるりと持ち上がった右手が、ルートヴィッヒの白い頬を撫でる。
その手が酷く熱を帯びていることに驚いたルートヴィッヒが思わず一歩身を引こうとしたその時、それまでのふらふらとした酔漢の足取りが嘘であったかのようなすばやい動きで、ルートヴィッヒの懐へ入り、両手でその動きを封じると奪うような深いキスをした。
突然のことに驚き固まってしまったルートヴィッヒの口内に、酒気に塗れた熱い舌がぬるりと差し込まれ、侵略するように、遠慮なく嬲りつくす。
ぴちゃりと湿った水音に、ようやく我に返ったルートヴィッヒが、それでも状況を把握出来ず、眼下でゆるゆると揺れるアーサーの顔を見つめると、アーサーもその視線に気付いたのか、翠緑の瞳を撓ませてルートヴィッヒを見据えた。
その目に宿った熱は、アルコールによるものだけでは無かった。静かな碧の底に沈んだ、歪な、しかし確固とした闇のような熱塊を、ルートヴィッヒは確かに見た。

「…よ、せっ…!」

アーサーの瞳を見た瞬間、背中を走った怖気と共に理性を取り戻したルートヴィッヒが力任せにアーサーの腕を引き剥がし押しのけると、アーサーはぐらりと体勢を崩し、たたらを踏んだかと思うと、先ほどまで自らが腰掛けていたデスクの足元に崩れ折れた。

「貴様、いきなり何を…っ!」

濡れた口元を軍服の硬い袖でごしごしと乱暴に擦る。
まるでアーサーの触れた場所を抉り取ろうとするかのように。
やがて薄い唇は破れ、血が滲んだが、ルートヴィッヒは腕を止めなかった。
その様子をぼんやりとルートヴィッヒの足元から見上げていたアーサーは、やがて俯き、ふるふると体を震わせ始めた。

「アーサー?」
「…ククッ…ハッ、ハハハッ!アハハハハハ!!!!!」

ルートヴィッヒが思わず声を掛けると同時に、アーサーは弾けんばかりの笑い声を上げた。
両手でがしがしと髪を掻き毟り、苦痛を耐えるように身を捩りながら、それでも笑い続けるアーサーにルートヴィッヒは先ほどまでの怒りも忘れ、ただ混乱した。

「…狂っている」

その小さな声は、アーサー自身の笑い声に掻き消されてルートヴィッヒ自身にも届かなかった。
しかしアーサーはルートヴィッヒがそう呟いた途端、笑うのを止めた。

「…狂ってる?」

俯いたまま呟くアーサーの表情は、ルートヴィッヒからは伺えない。

「狂ってる…そうか、おれは、おれは狂っているのか…」
「アーサー…?」
「ああ、そうか、狂っているんだな。なら、仕方ねえよな…」
「アーサー、その、大丈夫か?」
「ルートヴィッヒ」
「え?」

ふいに、アーサーが顔を上げた。
思わず覗き込んだ翠緑の瞳は、うっすらと涙に濡れていた。

「…行くな…」
「…アーサー?」
「ルートヴィッヒ、お前が好きだ」
「…え?」
「愛している」
「アー、サー…」
「愛してるんだ…お前を手放したく無いんだ…」
「……何」
「どうすればいい?どうすればお前をずっと手元に置いておける?どうすればお前は、」

一息にまくし立てる様に言いたてたアーサーは、一度言葉を止めた。
開いたままの唇からは、今にもアーサーの心が溢れ出そうだった。
しかしアーサーは、その唇をぎゅうっと噛み締め、俯き、両腕で頭を抱え込んでしまう。
その様子はやはり、曇天の向こうに太陽を覆い隠したこの国の空模様に似ている、とルートヴィッヒは思った。

「…悪い、なんでも無い。忘れてくれ」
「アーサー」
「…その名前で呼ぶな。もう、二度と」

それは、始めにこの国で瞳を開いたとき、アーサーから言い出した約束だった。