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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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とうまとあゆ~笛の音~

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そしてそれもひとえに自分たちの鎧の力を目にした錦織が取りなしてくれたおかげだった。
それから亜由美はさらに錦織に頼み込んだ。
自分に銃の使い方を教えて欲しいと。
先日のような時には剣で戦っても意味はない。先に銃を制した方が勝ちなのだ。
粘り強く頼み込む亜由美にとうとう錦織も折れた。
中学生に銃を教える羽目になった彼も災難だったが亜由美はあっという間にその使い方をマスターした。これも魂のなせる技なのか、悲しいぐらいに凶器が操れるようになっていた。
捜査は難航していた。一向に男の行方は分からなかった。亜由美の力を持ってしてでもその魂の居所はわからなかった。ひたすら我慢の時が続いた。気が狂ってしまうかのような憎悪に亜由美は身を焦がしながらひたすらまった。

そこへ情報が入った。男が笛の奏者に接触を始めているという情報が入った。
そこから男の足取りを追う。追いつめるようにして緻密に捜査を進めていく。
男の居所が錦織の耳に入ったとき、すでに亜由美はその男の所へ動いていた。
単身男の元へ乗り込む。今度はあんな過ちを犯さない。
大事な人は私が守る。
彼の笛は私にしか吹けない。
いずれ彼は私に再び接触をしてくる。そんな悠長なことをして待っているつもりはなかった。
男はいともたやすく亜由美に追いつめられた。それでも狂気のまなざしで亜由美の体をなめまわすように眺める。
蛇のようなという形容があたるかのような男の仕草に亜由美は身震いした。
「その笛を返してさっさとお縄についたらどう?」
亜由美は憎悪にあふれたまなざしを男に向ける。
男はかつての従者そして両親を殺し、知盛にさえ反逆し、さらに転生してまで殺人を犯した。
「憲光・・・。いい加減に黄泉に帰ったら? あなたはこの世界にいる必要はない!」
「やはりすずなのか。あの女か。しょうもない笛しか吹く能のない女か」
男はにやりと笑う。
「さぁ、私のために笛を吹け。魔物を呼び起こし、この世を私のものにするのだ」
男が笛を亜由美に放り投げた。
手の中に笛が転がり込む。
愛しいあの人にもらった笛でそんなことはしない。
堅く心の中で誓った亜由美は笛を手にした。
そして吹く。魔の旋律を。
だが、それは魔物を呼び起こすためではない。男を狂わすためだけの旋律。
男は笛の音に狂わされていく。
狂った目で亜由美をまだ眺めている。
「そうだ・・・。私のために笛を吹き、そのためだけにお前は生きるのだ」
ふいに笛の音がやんだ。からん、と笛が床にころがる。
「智也君のかたき、うたせてもらうわ」
亜由美は銃を打った。初めて人に向けて撃った。銃声が一発とどろく。
銃は一発で男の心臓を捉えていた。
だが、その魂が抜け出ようとしていたのを亜由美は見逃さなかった。
すぐさま手に錫杖を持つ。
「あなたにあの世はいらない。永遠に続く闇の中に堕ちるがいい!!!」
亜由美は渾身の力を込めて男の魂をこなごなにうち砕いた。
断末魔の叫びがこだまする。
憎しみだけが亜由美を動かしていた。
悪をただすために自分は動かなかった。
使命とは違う目的で男を殺した。
自分の手は血に汚れてしまった。
だが、もう後悔はしない。
智也の死を無駄にはしない。
私はこの道で生きていく。
悪を働く人間達を断罪していくのだ。
亜由美はくるりと背を向けるとそこを立ち去った。

ある日、錦織が柳生邸にやって来た。
あの男が死んだ直後に錦織達が駆けつけてきたが、すでに亜由美の姿はなく笛と男の死体がただ転がっていた。
亜由美はリビングに呼ばれた。当麻もナスティ達もいる。
その前で錦織は笛を差し出した。
「あなたの笛だ。お返しに来た」
亜由美はいいえ、と首を振る。
「この笛は涼風姫のもの。私はあゆ。彼女ではありません。しかるべきところに納めて下さい」
その答えて錦織は満足したようだった。ただ、・・・と亜由美が続ける。
「一曲だけ彼のために吹かせて」
錦織が黙って笛を手渡す。亜由美は手に取ると笛に息を送り込んだ。
澄んだ音色が屋敷に響く。
だが、もの悲しい音色はただ智也という少年のためだけに捧げられた曲だった。
優しいそれでいて強かった彼のためだけに吹く笛の音。
もの悲しい笛の音はしばらく柳生邸の中に響いていた。

さぁっと風が亜由美の髪をなでた。長い髪が風に揺れる。
まるでそこに智也がいるかのように。
亜由美の瞳から涙がぽろりと一粒こぼれた。
この少年の事は闇に葬られていくのだろう。
知盛の名が闇にうずもれていったかのように。
だが、自分は忘れることはないだろう。
自分の道を教えてくれた彼に。
私はこの闇の世界で生きていく。
闇を切り裂き、手を闇に染めていく。
それでいいのだ。
私は闇に生きる人間。
亜由美は涙を手でぬぐいとるとそこを後にした。
当麻がやるせない思いで見送る。
亜由美は手を汚してしまった。自分の元にいたくないと言った。
それをなんとかなだめている最中でもあった。
手を汚したのはひとえに彼のため。
もう一人の自分のため。
愛する人のため。
その手も心も綺麗すぎるのだ。
だからひとつのシミすら大きく見えるのだ。
亜由美がしたことは悪になるのかもしれない。
だが、その男はそれに値した。
地獄に堕ちるに値した。
それだけで当麻は亜由美を許したかった。
当の本人が許さなくてもそれだけで亜由美を許して抱きしめてやりたかった。
去りゆく亜由美の背中から当麻が抱きしめる。
「俺も、お前と一緒だから。もう悲しむなよ」
亜由美は当麻の手に自分の手を重ねた。
「ごめんね。当麻を巻き込むつもりはないの。私はもう決めたの。大事な人たちを二度と失わすことのないように・・・と」
だから、ごめん。
そういって当麻の腕の中から離れると亜由美はそのまま背を向けて立ち去った。

闇の中で真珠の魂が泣いている。そんな気が当麻はしていた。