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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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とうまとあゆ~笛の音~

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「いいことをおしえてやろう。あのへぼ老人の孫がお前だ。お前は祖母を殺すのに加担したんだ。いい話だろう?」
亜由美の中でふつふつと怒りが燃え上がった。
「ひどい。彼を侮辱するのは私が許さない!」
ほう、と男が一瞥する。
「その笛を吹いて私の野望をとげてくれるのかい?」
いいえ、と亜由美はきっぱりと言い放った。
「あなたみたいな人は地獄に落ちればいい」
亜由美の体の中から力が呼び覚まされる。
じっと悟られぬように隠していた力がオーラとなって現れる。
「君は?」
少年が呆然とつぶやく。
「私はあゆ。こういう人間を相手に生きている人間よ。」
亜由美は手短く説明すると少年の手を取った。
「逃げるわよ」
亜由美はふっと姿を消したかと思うと男をとおりこして部屋を駆け出した。
出口に向かって飛び出て行く。そのスピードは普通の人間には追いつけない。
少年と亜由美はまるで空を飛んでいるかのように研究所の中を逃げる。
だが、まるで迷路のような構造の研究所の出口がわからない。
テレポートするのはできるがどこへ出るのかわからない。
とうとう袋小路に入ってしまった。
少年ですらこの研究所の構造は理解できていなかったらしい。
「追いかけっこもいいかげん終わりにするんだな」
かちり、と音がした。
劇鉄をおろす音。
亜由美は動きを止めた。
一人なら切り抜けられる。だが、今は一人ではない。
「逃げ道わかる?」
亜由美はこっそり少年に尋ねる。
「ごめん。わからない。この研究所は父さん・・・いやあいつの傑作なんだ。誰も出られない。僕が君を守る」
少年がずいっと前にでる。
「ふん。いまさらナイト気取りでばかばかしい。生身のお前に何ができる」
「それでも彼女守る」
緊迫した空気が張り詰める。
騒がしい物音が急激に聞こえてきた。
ちぃ、と男は声を上げた。
「気がつきおったか。いずればれるとわかっていたがな。その前にお前たちを始末しよう。その女が涼風じゃないなら無価値だ」
爆発音が何度か響く。
そのたびに壁が震える。男の狙いも定まらない。
「どいて。あなたが死んでしまう。私なら大丈夫だから」
亜由美が前へ出ようとするが少年は頑として動かない。
「今度は僕が君を守るんだ。たとえ、涼風じゃないくても。君と過ごした時間を守るためなら・・・」
「あゆ!」
当麻の声が聞こえてきた。
「当麻!!! ここよ!!」
壁を突き抜けて当麻が現れた。青い天空の鎧を身にまとって。
「どけ! あゆから離れろ」
当麻が弓を引き絞る。
「違うの。当麻。彼は違うの!!!」
「邪魔な小僧が入ったわ!!」
銃声が数発響いた。
当麻へのけん制、亜由美と少年へ向けられた銃弾もあった。
「危ない!!」
少年が亜由美をかばって床下にころがった。少年は腕を押さえている。血がにじんでいた。
「腕をやられた。君だけでも彼と逃げて」
床に転がって。少年は亜由美に指示する。
「だめ。こんなところで死んでどうするの。おばあさまだって喜ばないわ。さぁ、行くわよ」
亜由美は少年を抱きかかえてテレポートしようと身構えた。
「死ね!!」
すでに狂っている男の最後の銃弾が放たれた。
「涼風!!」
少年が亜由美を抱きかかえた。
ずん、という嫌な響きが亜由美の体にひびいてきた。
「知盛様?」
「よかった。今度は君を助けることができた。無事でよかった・・・」
亜由美は放心状態の心をかかえて少年の体を抱きかかえた。
援護に来た錦織のおかげで男は逃走して消えていた。笛と共に。
残されたのは亜由美と少年と当麻と錦織。
くず折れる少年の体。
「うそ・・・でしょう? 知盛様? お願い。死なないで。目を開けて・・・」
震える声で亜由美が懇願する。
「すず? あゆ?」
少年の震える手が亜由美のほほに触れる。
「すずよ。ずっと黙っていたけれど本当はすずよ。あなたの涼風よ。私が正真正銘の涼風姫よ。だからお願い。死なないで。私をおいていかないで」
「大丈夫だよ。君にはもう一人の僕がいる・・・・。彼が本当の知盛だよ。僕は記憶だけ持っているんだ。彼は体と魂を全部受け継いだようだ。だからなかないですず・・・。いや、あゆ。
僕は満足だよ。君に会えた。僕の・・・・」
本当の名前は智也というんだ。
少年はそれだけを亜由美の耳元にささやいて事切れた。
「お願い。目を開けて。すずをおいていかないで。すずを一人にしないで。知盛さまーーーーー!!!!」
何度呼び起こしても肩をゆすってももう少年は起き上がらなかった。
亜由美の嘆きの絶叫が部屋にこだました。
「いやーーーーーーーーーー!!! 知盛さまぁぁぁぁ!!!!」
彼はもう目覚めなかった。

亜由美は知盛、いや智也の胸にすがって泣きじゃくった。涼風との再会はあっというまに終わってしまった。力を目覚めさせた自分にはわかる。彼もまた知盛の魂を受け継いだ少年だった。記憶だけが剥離してこの少年に受け継がれていたのだ。愛する者が死んでしまう悲しみを亜由美は今、再び体験していた。遠い記憶の中でしかなかった感情があふれ出す。すずとしての悲しみ、愛情。愛していた夫の死をどうして悲しまずにいられようか。身の引き裂かれる思いに亜由美は号泣していた。
当麻がそっと亜由美の肩を抱く。亜由美は当麻の胸に抱きつくとひたすら泣き続けた。
錦織が少年の体をだきあげた。がくんと首がのけぞっていた。もうその体はうごかないのだ。
許さない、と亜由美は呟く。泣き声の中にまぎれこんで誰にも聞こえない声だったが亜由美は何度も呟いた。
「許さない・・・。あの男は転生しても悪事を働くのね・・・」
亜遊羅としての力を目覚めさせた自分には分かる。あの男の正体はかつての父や母を殺した知盛の従者だったのだ。悪に染まった魂を見まごうことはない。
何度生き返ってもあの男は悪に荷担していたのだ。
当麻が亜由美を抱きかかえた。
研究所のあちこちで火の手があがっていた。
相当荒っぽい手を使って侵入したらしい。
当麻と錦織はそれぞれ人間をだきあげてその場から動いた。
その間も亜由美は泣いていた。
もうかなわない恋。二度と見られぬ少年の笑顔。優しい人なつっこい笑顔だけがぐるぐると脳裏に駆けめぐる。
「ごめんね。知盛様・・・」
亜由美は謝ることしかできなかった。

男の行方と笛の行方は依然として消えていた。
当麻に抱かれて柳生邸へ戻ってもそれは変わらなかった。
亜由美は気丈にも錦織に頼み込んだ。
自分を事件解決に使って欲しいと。
自分がさっさと逃げれば彼は生きていたかも知れない。
その後悔が亜由美をつき動かした。
断固として反対する当麻達を押し切り、亜由美は捜査に加わることとなった。
しかたなく当麻も一緒に加わる。臨時の内調のメンバーとして動く取り計らいを受けた。
亜由美は当麻が荷担することに反対したが、今度は亜由美が押し切られた。
あの少年からまかされたのだ、と当麻は言った。亜由美を守るとあの少年に誓ったのだと。
本の数秒の再会で自分たちが何ものか分からないのにたしかに当麻は自分と同じ魂のかけらを持っていた少年として智也を認めていた。自分たちにも分からぬ前世の因縁が引き合わせたのだと思うしかなかった。