氷花の指輪
8.熱の冷めぬ夜
あの日のことを、幾度となく思い出す。
あの初めての口づけの高揚感が忘れられない。
マスターは私を愛してくれている。
一緒に生きたいと思ってくれている。
なんと、幸せなことだろう。
そして、なんと心がざわめくのだろう。
言い知れぬ不安、言い知れぬ違和感。
私が近づくほど、
彼女の愛に応えようとするほど、
この手をすり抜け、こぼれ落ちていく彼女の幻影。
決して留めておけない雪の輝きのように。
知らず、自分の唇に触れ、
あの温かさと、このどうしようもない胸の苦しさをかみしめる。
私は、それでも……。
あの月夜に、手を差し伸べてくれた彼女を……。
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あの日のことを、幾度となく思い出す。
あの初めての口づけの切なさが忘れられない。
彼は、私のそばにいたいと言ってくれた。
共に生きようと言ってくれた。
なんて、幸せなことだろう。
そして、なんて心が痛いのだろう。
抱えきれない不安、抱えきれない罪悪感。
私が諦めるほど、
彼の愛から目を背けるほど、
この手からあふれ、こぼれ落ちていく彼の笑顔。
決して留めておけない太陽の熱のように。
知らず、自分の唇に触れ、
あの温かさと、このどうしようもない後悔をかみしめる。
私は、それでも……。
あの月夜に、私の手を取ってくれた彼を……。
……愛してる。