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氷花の指輪

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ベヒーモスの背から、天に昇っていく滝のその壮大な姿を見る。
滝を通して、朝日が無数のきらめく光に別れ、
抱えきれないほどの輝く宝石を力いっぱい散りばめたようだった。

「おはよう、ニコラス。」

そんな景色も霞むほど、美しく輝くマスターの姿。

「朝のお散歩をしていたら、こんな素敵な広場を見つけたの。
 今朝はまだ少し早いけど、あまりにもきれいな景色だったから。
 一緒に見たいなって…。」

ワンドで、頭を軽くコツコツとたたきながら、はにかむような笑顔。
この景色を一緒に見るために、降霊召喚して(起こして)くれたようだ。

「きれいですね……。」

しばらく無言でその美しい流れを共に見る。
その流れに乗って、二人で一緒に天の彼方へ行けたらいいのに。

沈黙を破ったのはマスターだった。

「……昨日は、ちょっと取り乱してごめん。
 想定外のことが起きると、だめだね……。
 本当は、セイレーンだって何だっていつものように軽く倒して
 依頼を達成するつもりだったんだけど……。」

朝日を浴び、そのきらめく光の中、その瞳にもっときらめくものを乗せて…。
笑い泣きみたいな顔で言う。

「過去のどうしようもなかった自分と重ねちゃって、
 ペース崩しちゃったみたい。
 すぐに元に戻すから、ちょっとだけ待っててくれると嬉しいな。」

「はい。マスター。
 あなたが本調子になるまで、いくらでも待ちます。
 ……ですが、たまには弱いところを見せてくれてもいいんですよ。
 私は、あなたの……。」

彼女が必死に隠していることが何なのか分からない。
必死に我慢していることも何なのか分からない。
そして、自分が彼女に何をしてあげられるか分からない。
自分が彼女の何なのかも分からなくなる。

「優しいこと言わないで。
 私はずるいから、あなたに甘えてしまう。
 今ここにいるのは私のわがままだから、あなたは私を許してくれなくていいの。
 あなたは、私の……。」

突然の風が最後の言葉をかき消す。
微笑むと同時に、頬を伝った涙も攫って行く。
手を、のばしたくなる。
その涙を拭うのは、私ではいけないのでしょうか。
それさえ、許してもらえないのでしょうか。

---

「ニコラス!」

「はい。」

マスターの強い発声に、正面に向き直り頭を下げ、彼女の命令を待つ。
そうこれが…、この緊張感と距離感が、私たちの正しい、位置なのだ……。
言葉ひとつで、思い知る。

「ちょっと、私と手合わせしてくれないかな?
 気持ちを切り替えてすっきりしたいんだ。」

驚いた。
一緒に鍛錬をすることはあっても、手合わせをするのは初めてだ。

「かしこまりました。」

お互いの気持ちをリセットするのに、
こんな美しい場所で剣を交えるとは、とても素敵なことだと思った。
彼女らしいやり方だと思った。

彼女が早速、素早いバックステップで私から距離を取り、
短剣を握り、腰を落とす。
私を見据えるその挑戦的な瞳に、ゾクゾクした。
私は魔道書を開き、右手に構え、背筋を伸ばして左手を前に。
いつでも術の詠唱ができるようにする。
二人の間に無粋な合図など、いらない!

いつものようにマスターの初手はシャイニングカット。
閃光のごときスピードで突っ込んでくる彼女、
肉薄する短剣の切っ先は、私の召喚した蜘蛛の霊塊に阻まれ、一歩届かない。

蜘蛛の霊塊を投げ、続けざまに術を詠唱し魔法陣を描く。
彼女の頭上にアラクロッソを召喚、降下。
魔法陣の発動の瞬間を見逃さず、その衝撃波の範囲までを予測し、
彼女は華麗に身を翻し躱す。
金色の髪が朝日にきらめきながら弧を描く。

そのまま、私の足を狙ったスライサーを決めに来る。
だが、彼女の着地点には、私の黒糸の陣。
高速の連続ダメージに彼女の足が鈍る。

そこへ召喚したゾンビ5体を向かわせる。逃がさない。
黒糸の陣の効果が切れるのが一瞬早かった。
彼女の暗闇の爪が、迫るゾンビをなぎ倒す。
ゾンビ召喚と同時に、彼女から距離を取っていた私に対し、
彼女はカーススピアを唱え、私に向かって七本の闇の気でできた槍を飛ばす。
一本目が左腕を軽くかすめるが、まっすぐに飛ぶ残りの槍の軌道は読める。

サイドステップで攻撃軸から外れ、魔道書を構え直そうとしたとき、
下から、強烈な殺気。彼女の短剣が閃く。
移動が早過ぎる!カーススピアに誘導されたか!
ライジングカットが、来る!

キーーーン!

短剣が、構えかけていた魔道書に弾かれ、涼やかな音を立てて飛んだ。
銀色の輝きは、そのまま飛んで、飛んで…。
天へと向かう滝に飲み込まれ、消えていった。
二人で、その短剣の流れる先を静かに見守った。

しばらくその余韻を心地よく楽しんだ後、
彼女は右手首をおさえて大げさに叫んだ。

「いっったぁあああーーーい!」

「いけません!すぐに処置しなくては!」

慌てる私を見て、彼女は舌をペロッと出した。
そして、すっきりしたような顔で笑った。私もつられて笑った。

「あーあ。あの短剣、結構高かったのに。
 強力な魔法のシルバーナイフ……。」

「これを機に、ワンドに集中したらいかがです?」

「嫌ですよーだ。短剣とその技は、私のルーツなんだから。」

「ルーツ?」

「ふふふ。知りたい?
 駄目でーす。教えてあげませーん。
 でも、新しい短剣、買ってくれたら教えてあげようかなー?」

可愛くおねだりする彼女。
彼女には短剣で戦い続けたいと思わせる、何かがある。
『何も知らなかったこと』を、知ってしまった。


(お前たち!くそー!ずるいぞー!
 儂とも手合わせしろ王子ー!)

マスターがバラクルの霊魂を召喚したとたん、騒がしい声が聞こえた。
マスターの記憶を得たのか。

「あー。右手首痛いからしばらく無理だよ、バラクルー。」

(なんだとー!いや、むしろ右手などいらん!
 左腕だけで十分だ!ほら、やるぞー!)

綺麗な景色、明るく微笑むマスター。心強い仲間。
こんな毎日が続くなら、こんな楽しい毎日が続くなら…。
私は…何も知らないままの私を許してしまいそうになる……。

作品名:氷花の指輪 作家名:sarasa