機動戦士ガンダムSEED⇔ 第一話 「ヘリオポリスのアスラン
研究室に着くと、イザークが見知らぬ少女と話していた。
ピンクの髪でずいぶんと美しい、整った顔立ちをしていた。
自分達とそう変わらない年齢に見えた。
少女はイザークに返礼すると、研究室の隅にある椅子に腰掛けた。
「おい、アレ誰だよ」
ディアッカがイザークに尋ねた。
教授の客だ、とイザークは言った。
「俺も来客があると聞いていたから、しばらくここで待って貰うことになった」
「なんのお客さんなんですかね? 教授独身だし、うちの学生には見えないし――」
ニコルも見知らぬ客を訝しんでるようだった。
「ひょっとして、教授、あれでロリコンだったりして」
ディアッカがニヤつきながら、下品な詮索をした。
「ディアッカ!」
ディアッカの過ぎた冗談をイザークが咎める。
しかし、
「……そんなことよりイザーク……手紙のことを聞かせろよ!」
「な……手紙!?」
「とぼけるな! フレイ・アルスターへの手紙だよ」
今度はディアッカがイザークをからかい始めた。
見事な反撃だなとアスランは思った。
「知らんとい言ってるだろうが!」
「顔……真っ赤ですよ、イザーク」
ニコルまでそれに乗り始めた。
アスランは思わず笑った。 本当に此処は、彼らは、平和であるのだ。
「そ、そうだ、アスラン! これは教授からだ、元がプラント製品だから手に入れるのに苦労したらしいぞ」
「おい、ごまかすなよ!」
「う、うるさいな!」
捲くし立てるディアッカを手で払って、イザークはアスランに小型のバッテリーを渡した。
モビルスーツの部品にも利用されている高性能の電池ユニットだ。
「ありがとう。 コレならすぐにハロにも積める」
「あ、例のロボットですね!」
アスランはショルダーバッグから、手のひらに載るサイズの、緑色のボールのようなモノを取り出した。
アスランが自作した「ハロ」というロボットだ。
原型は、昔、地球圏で流行したマスコットロボットである。デザイン自体はアスランのモノではなかったが、このサイズまで小型化したのはアスランが初だった。
アスランは研究室の机に部品を並べると、ハロに組み込み始めた。興味深そうにニコルが覗き込んでいる。
アスランは夢中になって部品を遊んだ。
アスランは幼い頃から機械いじりが好きだった。コーディネイターであるが故か、一度分解した機械はどんな構造かすぐ理解できた。
ありとあらゆる機械についての本を読み漁っては、自分で作って試していた。
プチ・モビルスーツのユニットや、電動二輪車まで仲間と作ったことがあるほどだった。
父親のパトリックはそんな子供のアスランを見て「どちらの遺伝なのか……」と頭を悩ませた。
コーディネイターといえど、子供の頃の情緒までは、やはり人間である。 アスランは好奇心に任せて、自分の私物まで分解してしまう子供だったのであった。
母親のレノアは農学のエキスパートであったが、機械工学には疎いタイプであったし、パトリックもどちらかといえば、理学や工学よりは、人文科学を愛していた。
遺伝至上主義の立場をとっていたパトリックは、個人の趣向や興味の矛先までも遺伝子が決めるわけではないのだと、幼い息子をみて思ったほどだった。
「出来た……」
とアスランが電源を入れると、ハロの目に当たる部分のランプが光った。
『アスラン! ハロ、ゲンキ!』
途端に、ハロは動作を開始した。コロコロと机の上を転がると、
ぴょーんと、1mくらい飛び跳ねた。
「うわっ、このサイズなのに、すごい」
ニコルは驚いた。
『ニコル! ニコルモゲンキカ?』
「ははっ、可愛いな……」
ボイス・データはニコルの声を使わせてもらっていた。
彼は男性であるのだが、透き通るような、優しい、心地よい声をしているのだ。
機械的に合成された音声が出ているので、本人のそれとは少し印象が違っているのだが、
ニコルの声は、そのロボットの愛嬌をずっと良いものにしていた。
自分の声が小さなロボットから出ているのをみて、ニコルは感動しているようだった。
「今度の課題用だけど、こういうのなら、ウケがいいかな?」
とアスランは言った。
ウケがいい、と言ったのは、彼がコーディネイターであるが故だ。
いくら、ナチュラル、コーディネイターという差別が無いオーブでも、完全に偏見が無くなる事は無い。
同級生の大半はナチュラルである。ただでさえ、人間は嫉妬する生き物であるのだ。
遺伝子調整を――正確には遺伝子調整を受けた両親からその形質を引き継いで生まれてきたアスランは、やっかみの矛先となることも多かった。
と、なれば気を使う。下手に彼らの神経を逆なでしてしまうような難解なレポートや製作物でも出してしまえば、いらぬトラブルを招いてしまうこともあった。
ハロみたいなモノであれば、ナチュラルの同級生達の気に障ることも無いだろう、と。
が、
「気遣いのつもりか? それ」
と、イザークだけは突っかかってくるのだった。
彼だけは特別だった。いつもアスランに突っかかってくる。
「別に……」
アスランは、またか、と思いながら苦笑した。
イザークこそ、偏見や差別でそのような態度を取る訳ではないのをアスランは見抜いていた。
恐らくだが、アスランがコーディネイターであろうと無かろうと、イザークはこういう態度を取ってくるだろう。
イザークは地球育ちで、エリートの家系であると聞く。
ナチュラルで在るが故の劣等感からではなく、ただ単にプライドが異様に高いのだ。
コーディネイターであるアスランに真剣に勝とうとしてくるくらい。
アスランはマジメに怖い顔をしているイザークを見て噴出した。
「なんだ、なにがおかしい?」
アスランはそれを不快には思わなかった。
むしろ、イザークがそういう実直さを貫いている男であるのを、好ましく思ってたくらいだった。
「この間イザークが作った太陽電池よりかは面白いと思うけどな」
「なっ……見てろ貴様! 今に……」
だから、アスランもつい本気になってしまうのだ。
作品名:機動戦士ガンダムSEED⇔ 第一話 「ヘリオポリスのアスラン 作家名:内山ワークス