無限回廊
若島津なりに自身の行動を省みても、何が反町のそこまでの逆鱗に触れたのか、とんと見当がつかない。しいて言えばペア云々を問うたことくらいか。
「……ペアリングかどうかを聞いたことか?」
「それだけじゃない。その前に健ちゃん、嫌そうな顔、してた」
ただ聞いたことくらいで、と思っていたらそう返され、ギクリ、とした。反町は、変に他人の顔色を気にするせいか、若島津に対しても表情の変化にはやけに鋭いところがある。
『何だろう』という疑念と確認以外には、別に、他意はなかった、はずだった。が、今思い返すと、本当にそうだったろうか。
自分や反町の立場や性別を気にしなかったか。物が物であるだけに、躊躇がなかったか。
自分に問い直してみると、否、と即答できる自信はなかった。
「……すまん」
「いいよ、もう。何となく、わかったから。それより……それなのに? あんなことして、良かったの?」
「あんなこと?」
いつのもの表情に戻った反町に安堵しつつ、反町の問いかけにキョトンと返す。
「さっきの。知らないおねーさんの前で『俺の』だの『好き』だのって」
言いながら、徐々にいつもの調子に戻ったのか、反町がニィッと意地の悪そうな笑みを浮かべた。若島津はその顔をしばらく見つめてからフッと笑い声を漏らすと、反町の髪をクシャッと掴んだ。
「事実だからな。騒がれることになるなら、その時に考えればいいことだ」
「そっか」
「ああ。それより反町、指輪は結局、ペアリングなのか?」
ペアであってほしい気持ちと、そこまで露骨なのはちょっと、という気持ちと。合い混ざった思いで問うと、反町は首筋に手を入れ、ネックレスを持ち上げた。その先には、若島津のとよく似た、けれど彼の物より幾分華奢なデザインの指輪が光っていた。
「さすがに両方新郎用は買えないし、新婦用の号数上げたらバレバレだし、デザインも崩れるしね」
いつもの茶目っ気たっぷりに、ウィンクをしながら答える。その表情を見ながら、敵わないな、とひとりごちる。どれだけ余裕のある素振りを見せても、自分より何手も先を、反町は見据えている。結局、置いていかれないよう、必死に気取っている自分がいるだけだった。
「……そうか。似合うな」
「健ちゃんもね」
反町がネックレスをシャツの中に入れながら答えた。
若島津の薬指で、秋の陽光を反射して、白金の無限がキラリと輝いた。
[終わり]