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無自覚角度

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首が痛い。

最近、谷地仁花がそう思う瞬間は決まって影山飛雄と話している時だった。
同じ部活の選手とマネージャーという関係上、話すことはよくある。マネージャーの仕事を頼まれるとき、タオルやドリンクを渡すとき、練習の区切りにお疲れさまと声を掛けるとき。
影山との会話で自然と敬語を使うことが減ってから親近感もあり、入部したばかりの頃よりも言葉を交わすことは多くなったけれど、頻繁に首が痛いと思うことが増えるとは思ってもみなかった。
理由は30センチもある身長差。話すときは常に見上げているから、首が疲れてしまうのだ。

「お疲れさま」
「ウス」

休憩に入ればドリンクとタオルを求めて体育館の隅に人が集まる。慌ててみんなに配ったあと、ゆっくりとやって来た影山にドリンクを差し出せば、大きな手のひらがそれを受け取った。

「影山君、今日は調子良さそうだね」
「あー、そうかもしんねぇ。なんか、身体は軽い気がする」
「じゃあ、今日はゲームが楽しみだね」

きっと、すごいプレーを見せてくれるんだろうなって思えば、谷地は自然と笑顔になる。それにつられてか、影山も口の端を上向きにさせてそうだなと応える。

「あ、山口君もお疲れさま」

影山の向こうにギリギリまでコートにいた山口に、もう片方の手に持っていたドリンクを手渡せば元気なお礼の言葉が返ってくる。
谷地の視線はふと山口の頭のてっぺんを捉えた。月島と並ぶことが多くてあまり身長が高いようには見えないけれど、山口も平均身長はゆうに超えている。それどころか、見上げるのに首が痛くなる影山とあまり身長は変わらなかった。
でも、首が痛くなるのは影山くんと話しているときだけなんだよね。
先程も見上げて疲れた首の後ろをさすった。

「首、どうかしたの?」

正面に立っていた山口に声を掛けられれば、そちらを見上げる。山口ならそんなに痛くはない。

「あ、ううん。なんでもない。ちょっと首が痛いなーと思うことが増えてて」
「え、大丈夫?」

急に不安そうな表情で心配されるのは予想外で、谷地は思いきり首と両手を横に振った。

「だ、大丈夫だよ! 心配されるなんて畏れ多い……!」

思わず大きな声を上げてしまえば、少し遠くにいた日向が谷地に近づいてくる。他の先輩や月島は少し離れたところから気にしている素振りを見せている。

「どうしたの?」
「日向。大したことじゃないんだけど、最近、首が痛くなることが多くて」

特に、影山君と話しているときに。谷地がそう告げれば日向は驚いた顔をする。

「影山になにかされたのか!」
「違うよ! ほら、影山君って背が高いから喋ってるとずっと見上げることになって首が疲れちゃうの」
「あぁ、なぁんだ。じゃ、影山と喋らなきゃ良いじゃん」

それも何か違うよ、なんて突っ込んだのは谷地だったのか山口だったのか。気づけば、わいわいと話していたのが気になった月島まで寄ってきていた。

「喋らないで良いんじゃない? 話してたら馬鹿がうつるでしょ。あ、日向とも喋んないほうが良いか」
「なんだと! 身長高いと首が痛くなるなら、月島も一緒だろ!」
「ツッキー馬鹿にすんなよ!」
「うるさい山口」
「ごめんツッキー」

目の前で繰り広げられるいつもの流れに、谷地はくすくすと笑った。
そういえば、とふと思ったことを口にする。

「月島くんの方が身長高いけど、影山くんと話してるときの方が首が痛くなる気がする」

見上げる高さは月島の方が八センチも違うのに、あまり首が痛いと感じたことはなかった。それは、以前から影山と話す機会が多いときを含めても。
不思議だよね。そう呟けば、日向や山口は同調して相槌を打ったけれど、月島は厄介な相手を見たときのように顔を歪めた。

「それって、相手の身長じゃなく見上げる角度の問題デショ」

ため息混じりの月島の言葉に、三人して頭の上に疑問符を浮かべる。それに切り込んだのは日向だった。

「月島の方が背が高いし見上げる角度も大きいんだろ?」
「馬鹿にはわかんなかったねー」

鼻で笑うと、怒る日向を無視してさっさとその場を離れる月島。
彼の言葉にどんな意味があるのかよくわからないまま、練習再開の号令が掛かった。


作品名:無自覚角度 作家名:すずしろ