無題
丈高い青年が顔をあげた。そして、目を閉じたまま、ぐるりとほかの人間を見回すしぐさをする。
「使者の言葉に従うならば、まずは北の寺院へ。――どれだけの探索が必要になるのかわからない。だからこそ、つまらない雑魚で手を煩わされ、予備呪(プレキャスト)を減らす必要はない。――そう言えば納得するか? 新しき闇をまとう君主」
「……従おう。白き塔に輝く者、誉れ高き司祭。我らを導く者」
小さな舌打ちこそあったものの、言葉ははっきりしていた。剣を収め、さっさと探索の先頭にあたるであろう場所に移動する。
赤毛の青年があわててそれを追った。
「では。ここを起点とします」
黒いローブの青年が予備呪を解き放つ。この六人の男女の中で最も目立たず、女性を除きもっとも小柄な青年だ。ローブの下に見える手足は細くて白い。古びた杖こそ持ってはいないが、おそらくは丈高い青年とよくにた知的労働階級に属するのだろう。実際、先ほどから予備呪を解き放ったのはこの青年だけだ。
できましたとの声に、丈高い青年は頷いた。そして。
「まずは北だ」
地図を出す女性、位置を変える偉丈夫などの行動を見、完成したところで彼は歩き始めた。
神を賛美せよ! 力強い祝福を口にすると、一団のほかの人間も、かわるがわる唱和する。
もう一度同じセリフを口中で口にしてから、彼は目的地へと足を早めた。