うたをうたう 1
花冷えの嵐が散らかした雲と桜が、空に散らばり、地面に散らばる。
足元の水溜りに咲く満開を、ぱしゃん、と乱暴に別れ別れにさせた。
――意地悪ね、十四郎さん
「土方さん」
「あ?」
「差し入れでさァ」
――あら、そーちゃん。口の周りにお弁当がついてるわ
「差し入れって、弁当の空箱か」
「いいえ、その袋に入ってる紅しょうがです」
「トシィ!総悟!」
――近藤さん、顔が腫れてるわ。どうしたのかしら
「アンタも大概学習しねぇな・・・・」
「何を言うんだトシ!嫌よ嫌よも好きの内だろ?」
「「いや、だから嫌なんだろ(でしょう)」」
ひらりひらり、音もなくゆっくりと踊りながら落ちてきた花弁が、黒の隊服に飾りをつけた。
「もうすっかり春だなぁ。そうだ、花見は何時にしようか」
「気が早ェよ。まだ五分咲きだ」
「別に桜なんてどうでもいいですぜィ。酒が飲めりゃ、それで」
「お妙さんが居れば、それで」
「てめェらに花見をする資格はねぇ」
口に咥えた煙草を離して、紫煙を空に吸い込ませる。
じゃりじゃりと靴底を地面に擦り付けた。
――煙草のポイ捨ては駄目よ?おまわりさん
「おら、屯所に戻んぞ」
――いってらっしゃい、頑張ってね
さよなら ただただ 愛しき日々よ