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はろ☆どき
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九十九と一の幽玄ー前編ー【スパーク9新刊】

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 はらりと書類を捲る音と、さらさらとペンを走らせる音だけが室内に響いていく。この部屋の主の地位からして、防犯上の理由で窓はきっちりと閉められカーテンで覆われていたが、午後の陽射しに明るく照らされているのが分かる。今日は天気がよく気温も湿度も程よくて過ごしやすいと、気象予報が告げていた。こんな時は仕事も捗るというものだ。
 と思いきや、ころんとペンが転がり革張りの背もたれがぎしっと軋む音がした。
「飽きた――」
 この部屋の主である人物はペンを持つことを放棄して、背もたれに背を預け両手を万歳するように上げて伸びをした。ついでに欠伸が出てしまったのは許して欲しい。かれこれ二時間強、休憩なしに書類と格闘していたのだから。
 黒革の仕立てのよい椅子から立ち上がると、窓に近寄って脇からカーテンの端を捲り窓越しに外を覗いた。外は程よく陽が照っており、敷地内に植わった木々を優しい色合いに見せている。そろそろ緑から黄や赤になり始めた葉もある時期だ。
 陽射しを追って目線を上げ天を見上げると、少し薄い色合いの澄んだ空が広がっていた。所々雲も見られたが、夏のように隆々と厚みのある存在感を主張したものではなく、薄く空の藍が透けて見えるようなものだ。それがまた爽やかさを醸し出しており、秋晴れと言って差し支えない様子だった。
 上空は風が強いのか、綿菓子を千切ったような雲が刻々と姿を変えながら、視界の端から端へと流れていく。
 女心となんとやら……とはよく言ったものだが、その時脳裏に浮かんだのは、金髪をみつあみにした赤いコートの少年だった。自分が後見をしている十四も年下の子供だ。ここを拠点とするように言ってあるが、いつもあちこちに飛び回っていてちっとも顔を見せてくれない。それが自分には不満なのだ。だって自分は……。
 自分はその少年に恋をしているのだ。気に入っているとか父性のような庇護欲の類いではない。彼のくるくるとよく変わる表情は、見ていて本当に飽きない。怒っている顔も呆れた顔も、ふてぶてしく振る舞う小憎らしい顔も、強がって見せている時の顔も、全てが愛おしい。自分には滅多に見せてくれない掛け値なしの笑顔など見てしまったら、心拍数が急上昇し、いい歳をしてどきまぎしてしまうくらいには重症だ。これを恋情と言わずなんと呼ぶのか。
 二十代にして軍の佐官という地位に加えて、どうやら女性受けのよい顔立ちらしく、お相手に事欠くことはない。しかし彼に関しては、目の前に居ずとも胸の内で姿を思い描くだけでそわそわと浮いたような、ともすると甘酸っぱいような気持ちになるのだ。何処の初恋をした小僧かと言いたくなるが、そう言えば自分には初恋の記憶がない。少年時代を大人の女性に囲まれて育ったせいか、女性に対する物腰や対応を自然と会得したようで、老若問わず女性にはこうすべしという気持ちで接してきただけなのだ。
(もしかしたら本当に初恋かもしれんな――)