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Last/prologue

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第1話「確率論」





H大学国際教養学部2年TOIECスコア852の超秀才。
水野竜也はもう少しで20歳の誕生日を迎える。
成績優秀でルックスも抜群。これで女だったら絶対ミスH大になってただろうに、と彼の友人は嘆きまくる。
そんな周囲の扱い方にも入学して1年半以上たてばもう慣れた。
元々この外見をああだこうだという奴は多いものだから。

そんな水野の前にあまりにも好意的とは言いがたい表情で奴は現われた。
隣の椎名は笑っているが彼の表情は顔中に「嫌」という言葉を貼り付けたぐらいにうっとおしそうだった。


「水野、コイツだよ政治経済学部の3年の藤村。」

「………あぁ……前にサッカーがうまいって言ってた………」

「何やねん椎名。いきなり学食奢っちゃる言うから付いてきたんにコイツは」

「まぁ落ち着けよ。悪いようにはしねぇから。」

「椎名、話してないのか?」

「話したら来ないだろ?」

「……………」


話したら来ない…そういう…やつなのか?
水野の無言の疑問に回答を出すものはいない。

H大学政治経済学部3年藤村成樹。
通称奇跡の人。どこら辺が奇跡なのかというと、先ず彼と遭遇する確立が奇跡に近い。
なぜならば限界ギリギリまで欠席を重ね、出席するにしても開始ギリギリに来て終わった早々帰り、
開いたコマは保健室で寝るからだ。

別称もある。サボリの藤村。
授業に来てもスイートスリーピングタイム。
ノートはとらない授業も聞かないなのに何故か 3年まで進級してる不思議な人物である。
成績もそこそこで悪いとはいえない。 授業を聞いてないのに何故なのか。
と問われれば天性のもの、と彼は答えるだろう。
生まれ持った器がちがうっちゅーねん。


「…その…初めまして。国際教養2年の水野だ。一応…先輩って呼べばいいのかな。」

「そんな薄ら寒い言葉はききたないわ。」

「コイツも呼び捨てでいいよ。俺のこととおんなじ。」

椎名が笑う。

「じゃぁ藤村。」

宜しく。と水野は手を差し出したが、藤村はそれを見つめているだけだ。
一向に返さない。
 
「お前、温室育ちのぼっちゃんやな。」

「…は?」

「外見みりゃわかるっちゅーねん。今まで苦労したこととかほとんどないやろ。
人生の苦味を味わっとらん奴とは仲良うできる気がせんな。
自分、俺と性格合わんと思うで。」

「おい藤村。」

「姫さん。折角やけど今回のはナシな。
何しようと思てたんかは想像つくけど、俺サッカーなんぞする気ないもん。勉強忙しいさかい。」

「何が忙しいんだよサボリ魔の癖に。」


初めて、差し出された手を拒絶された。
水野は少し呆然としたが、すぐに世の中にはいろんな人種の人間が居るじゃないか。
自分と合わない奴だって、当然居る。
そう思い直し手を下ろした。


「そんじゃな。俺帰るわ。」


そういって藤村はその場を離れる。
コートのポケットに手を突っ込んでふわぁとあくびをかきながら歩き出していった。

「悪い!水野又夜にな!」

椎名は藤村を追いかけていった。

今日、椎名と昼に待ち合わせをしていたのはサッカー部のことだった。
椎名とは同じ推理小説研究会仲間なのだが、
ある日ふとした日サッカーの話が持ち上がった。


水野は高校までサッカー部だった。
部活サッカー程度だったけどそれなりに上手い方だとは思う。
椎名も同じようなものだった。

椎名の友人に黒川という人物が居る。
この大学の理工学部2年で、椎名の後輩に当たる人物だ。
ゼミが同じで知り合ったらしい。もちろん椎名も理工学部だったりする。

この3人で、サッカー部を作ろう。という話が出来たのは
ほんの1ヶ月前のことだった。

今日は、椎名が見つけたというサッカーが上手いという人物と合う、
予定だったのだが、会ったはいいものの、色々と性格が合わなかったようで。
特に俺は何もしてないのに…と水野は思いつつも
見ただけで嫌悪を抱く人間も居るのだろうと
強引に大人な解釈をすることにした。

結局、サッカーが上手いらしい藤村という人物とはお近づきにはなれなかった。
サッカーが出来るなら友達になりたい。
部活を作るのにも協力して欲しい。
そうは、思うのだけれど………


意外に疲れたな…と水野はため息をつく。
ため息をついて、二人が去っていった方向を見つめて
其処からきびすを返した。

もうすぐで昼休みが終わる。
次の授業に行かなければ…次は…4号館の4Eだったはずだ。





とっぷりと日が暮れて、
5限の授業が18時10分に終わる。
今日の5限は「文章表現法」だ。
水野の専攻する国際教養の授業ではないのだが、H大では申請すれば他の学部の授業も取れるので、
水野は文学部の授業を取っていた。

推理小説研究会に所属するからには推理小説を読むのはもちろん書くこともする。
書いて新たな発見を見出したりするからだ。
文章表現法は研究会の為に取ったといっても過言ではない。
でもいい加減な理由でとった授業だけれど意外にその内容は面白い。

今日の講義内容は「隠喩」について。
色々な文章を例題に出されて講義されたが、その中でも水野の頭の中に残ったのは「言葉の死んだ世界」という文だった。
確か、畑山博の「時間のない町」という作品だった気がする。


来週の講義も楽しみだ。そんなことを思いながら水野は階段を下りて廊下を歩く。
3号館2C教室を拠点に活動する推理小説研究会に参加する為だった。


ガラっと扉を開くと、すでに何人かが論議を始めていた。

「あ、水野。」

「ごめん5限があったから遅くなった。」

「あれだろ?文学部の授業。よくとったよなぁ。」

俺必須科目で精一杯。とそういったのは商学部2年の高井だ。
高井とは高校が同じでその縁でこのサークルに誘った。
推理小説にはあまり興味がない高井だったが
意外にも乗って来てくれてうれしかったのを覚えている。

「水野。」

「椎名…」

高井の隣を見やると椎名がすまなさそうに手を振っていた。
さらにその隣では研究会のメンバーではないのだが椎名の後輩の黒川が居る。

「今日はごめんな。あいつむらっけ多いからさ。一匹狼っての?今時はやんねぇっての。」

「別に…大丈夫だよ。
あぁいうやつも居るだろうし。でもどうしてあの人がサッカー上手いって知ってたんだ?」

「ん?あぁ、前にな、一人でサッカー雑誌広げてたんだよ。
ドイツワールドカップがあっただろ?それで。」

椎名が思い出し笑いをする。

「そんで話しかけたらいきなり女子と間違われたんで殴り飛ばしてやったわけ。
でも話してみたら日本代表けなしまくるから超面白くて。そんで仲良くなった。
それ自体は偶然なんだけど後で色々聞いたら
奇跡の藤村ってあだ名が付くぐらいあいつと遭遇するのは奇跡らしいよ。」


奇跡…ねぇ。


ふーん。と水野は言った。
特に興味もない事項だ。脳内から排除してしまっても構わない。
作品名:Last/prologue 作家名:神颯@1110