Last/prologue
「………何や、おかしなっとったんや。」
「何が。」
「お前がタバコ吸っとるの見たとき、お前の隠れた部分を見た気がしてな。
教室で話しとるときも昼とは全然違たから可愛えぇなぁ。って。」
昔あった、あいつとよく似ている気がしたんや。
茶髪の、男の子に………
あいつが大きくなったら、こんな風に育ったかも知れない。
顔はもう覚えてないけど自分の事を「シゲ」とよぶあの元気のいい声は印象に残っている。
そんなことを考えていたら、止まらなくなった。
「ごめんな。」
水野がそれを聞いてため息をついた。持っていたカバンを床に下ろして
再びベッドに腰掛ける。
自分たちはもっと正しい方法で付き合えなかったのだろうか。
どうしてこんな道に逸れてしまったのか。
「水野…」
そう思うのに、近づいてくる藤村を拒めない自分がいる。
あの時と同じ視線で縫いとめられる。
「俺が…お前を好き言うたら信じる?」
「………」
「最初あった時は絶対気が合わんとおもっとったんや。
でもお前言うたよな。『最低』やって。」
「……聞いてたのか。」
「あれ聞いてからお前のことが頭から離れんくなった。
今日一日中お前のこと考えた。
お前に会いたくて推研まで行った。」
「………」
そこまで言って、藤村は笑った。
「さよなら、やな。深みにはまる前に抜け出したほうがえぇ。
そのほうがお互いの為や。」
「あ………」
絶対、告白されるものだと思っていた。でもその代わりに来た言葉は別離。
深みにはまるって、どういうこと?それぐらいお前は俺に執着したのか?
なのにさよならって何だよ。一体、何がどうなって。
「明日からはただのサッカー仲間や。」
ふっと顔が近づく。
触れるだけのキスをされた。藤村の手が優しく未練を残すように水野の頬を撫でる。
そんな風に触らないで欲しい。
錯覚してしまう。
愛されてると勘違いしてしまう。
やめてくれ。おまえはシゲじゃないのに。
シゲと、勘違いしてしまいそうで。
シゲ…シゲ…!!!
「さようなら。」
その瞬間水野の中で何かが音を立てて崩れ始めた。
自分が今まで築きあげてきたものが全て
どうして…シゲじゃないのにこんなに苦しいんだ?
なんで……どうして………
水野の瞳から涙がこぼれる。
けれど藤村はすでに振り返って部屋を出て行ってしまった。
おわった。
一夜の夢が。
たった今、終わったのだ。
作品名:Last/prologue 作家名:神颯@1110