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Last/prologue

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練習が終わりを迎えるころ、陽はとっぷりと沈みグラウンドには照明が灯されていた。
7時半を過ぎる。もう部室は乾いているころだろうか?
5時ぐらいに放置したから、多分もう大丈夫だろう。

椎名が練習の終わりを告げた。

部室の後片付けを済ませて部屋を出る。

「今日どこか行くか?サッカー部始動の記念飲み会とか。」

「悪いな。けど俺行くところがあんねん。」

「どこ?」

「水野」

そういってシゲは人差し指を真上にさす。

「行こうや。」

その意味を、瞬時に水野は理解した。
椎名も何のことだかなんとなくわかったようで「9時までには学校出るんだぞ。」と釘を刺す。

「俺たちだけで飲みにいくか。あいつらは二人でイチャつきたいんだとよ。
それに…今日は水野の誕生日だしな。」


「え?!そうなの水野君!」

「何で知ってるんだ椎名。」

「学生証、見られてないとでも思ったのか?」

悪いがお前が前に倒れたとき住所を見るときに見させてもらった。
椎名がそう告げて意地の悪い笑みを浮かべる。

「じゃ、ごゆっくり。」

「さよなら、また明日。」

椎名と小島が口々にそういってバス停のある方向へ歩いていった。

「姫さん感鋭いなぁ。」

「…敵に回すと怖いことこの上ない。」

「はは…ほならいこか。俺らも。」


目指すのは4号館屋上。
1階のドアは今日は閉まってたためシゲが合鍵で扉を開ける。
螺旋階段を上って屋上に出た。

「あれから、はじまったんやな。」

思えば、ここで出会わなければ一生互いを気にすることなどなかったかもしれない。
水野が鞄からタバコを出すとそれにライターで火をつけた。

「うわ。また吸っとるわ。」

「最近禁煙だったんだよ。」

「優等生のお言葉やとはおもえんな。」

水野が笑う。バーカ。
お前も吸うんだろ?
そういってタバコのボックスを藤村に投げつけた。

「こんなん俺に合わんわ。メンソール嫌いやもん。」

シゲがそういいながらも蓋を開けて一本取り出す。
ポケットからライターを出して火をつけた。

「そんなこと言う割には吸うんだ?」

「お前の味やな。」



沈黙。

紫煙が夜の闇にたなびいてく。
風に吹かれてすっと消えたそれに、水野はどこか儚さを覚えた。


「今日、さ。」


真ん中あたりまで吸ったタバコを携帯灰皿でもみ消しながら水野が言う。


「留学の話が来たんだ。ケンブリッジ大学。」


「………受けるん?」


「うん……そうしようと思う。」


藤村は目を瞑った。


「俺もお前も、目指す道は違うんだ。
だからゴールだって違うだろ?
いつかは来る離れなら、それを恐れていたらだめだと思って。

それに、離れたって、今度は大丈夫だろ?」

その問いかけに、シゲはうなずかなかった。
けれど水野はシゲの答えを知った。
瞳が、それを告げていた。




――――たつぼん――――






不意にシゲの中にそんな言葉が浮かぶ。
あぁ……そうか、あのときの子供は、今さなぎから蝶に華麗に変身を遂げようとしている。
自らの、意思で。



「たつぼん………」


シゲが遠くを見つめる水野の背中に覆いかぶさった。
在りし日のその呼び名に水野が目を見開き、そして次の瞬間涙をにじませた。


「うん………すきだよ。シゲ。」

まわされた腕に手を添える。
ぬくもりが暖かくて、心から安心した。
お前がいるから、俺はどこへでもいける。
お前という帰る場所があるから、俺は飛びたてるんだ。


「行ってこいや。そんで、またかえって来い。」


帰ってくる。必ずお前の元へ。
だからずっと俺を待っていてほしい。
この先何があってもどこにいっても、俺たちはずっと一緒なんだろ?




「誕生日…おめでとさん…………」





二人の新たな物語が、始まる――――



Last/prologue












作品名:Last/prologue 作家名:神颯@1110