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Last/prologue

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第2話「その手に落ちた彼」






風が水野と藤村のコートを揺らす。
いつの間にか手に持っていた火の点いたタバコを落としていることに水野は気づいていない。
それは数秒間燃えて、消えた。


この場所、こんな時間に自分以外の人間が居ること事態予想できなかったので
水野は呆然と立ち尽くしている。
しかも相手は昼間あったあの藤村。

名前は知らないが、好意的な人間とは思えない。
また何か文句を言われるのだろうか。
いや、そんなことより、
なんで…なんでここに?


「藤村…さん?」


やっとのことで搾り出した声は震えていた。


「うわっさぶ。いろんな意味で寒いで。さんやって。
気持ち悪いわ。もう呼び捨てでえぇて姫さん言っとったんおぼえてないん?」

「え…でも…。」

おまえは差し出した手を、思いっきり拒絶したじゃないか、しかもいちゃもんつきで。

「藤村でえぇよ。」

「…じゃぁ…藤村。なんでここに?」

「水野って言うたっけ。おまえとそんなに変わらん。夜景見ながらタバコ吹かしてただけや。
にしてもお前まだ19やろ。未成年がタバコすったらあかんのやで。」

「なんで知って…」

「姫さんが言うとるん聞いただけ。」

藤村がよっと声を出しながら給水等の上から飛び降りた。
身長が178ある自分の1.5倍はありそうな高さからいとも簡単にだ。

絶対ズドっとか音がすると思ったのに
聞こえてきたのは至極静かなトンとした軽い音だけ。

どれだけ身軽なんだ。と水野は思った。自分がやったら足を捻りかねない。
運動神経は悪くないほうだが、
だからといってこんな芸当をいともやすやす出来るわけでもないのだ。

昼間あった時と同じように藤村はポケットに手をつっこんでいた。
やっと目線が対等になったところで藤村は言う。

「流石の俺でもお前がタバコ吸うとは想像できひんかったわ。
優等生のおぼっちゃん。」

「…俺、何か気に障ることでもしたのか?昼からずっと温室育ちだとか優等生のおぼっちゃんだとか言いやがって。
俺は別に温室育ちでもないしおぼっちゃんでもないし優等生でもない。
成績から見たら…そう思われるかもしれないけど、優等生を気取ってるわけじゃない。」

「あぁ…別に。なんか存在だけで嫌な笑顔貼り付けとんな思てん。
別に何かされたからとちゃうよ。」

「お前、最悪だな。」

人を見かけで判断するなんて。
そんなことを言いかけた瞬間遠くからガチャンという音が響いた。

「…?………あ!!!」

慌てて腕時計を見ると8時59分
大方警備員が鍵を閉めに来たに違いない。

水野は走って螺旋階段をおり始める。藤村はもうこの際無視だ。
立ち入り禁止の札に知らん振りして屋上に上がったこととか、
そういうのを怒られても別に構わないからここから出して欲しい。
出ないとこんな寒い中一晩中野ざらしだ。

けれど、水野がドアの前に立った時警備員は何も気づく様子も
無く向こう側のドアを閉めたのだった。

終わった……

野ざらし決定。

水野の中にそんな言葉が浮かぶ。
どうしよう?こんな寒い中で。ホームレスじゃ有るまいし。
それに毛布も何も持ってない。

「おい」

「…藤村。」

「このあほが。もう少しで警備員に気づかれるとこやったやん。」

「気づかれていいんだよ!!それとも何か!お前はここでホームレスごっこしたいのか?!
元はといえばお前があんなとこに居るから…!!」

「あーはいはい全部俺のせいですか。」

「そうじゃないけど!!!」

チャリン。

水野の目の前に一つの鍵が差し出される。

「これ、なんやと思う?」

このタイミングで、この鍵。ならば答えは一つしか思い当たらない。けれど…
何でそんなものを藤村が持っているのか。ってことだ。
H大は4号館以外は全て電子ロックだから鍵は関係ない。
けど4号館の鍵は警備員が厳重に管理しているはずだ。

なのに。

「俺、盗むん得意やねん。」

最低だ。水野は言った。



とりあえず4号館に侵入することには成功した。
けれど藤村は4号館から3号館に通じる廊下への扉の鍵は持っていなかった。
もともと自分が屋上に来たい時に閉まっていたらいやだったから、という理由だけで盗んだらしいので
締め出されたときのことは想定外らしい。

とりあえず二人は手短な教室に足を踏み入れた。

「良かったなぁ水野君野ざらしにならんとって。」

「水野でいいよ。気持ち悪い。それにこっちが年下なんだから。」

わざと作ったような声に馬鹿正直に水野が返事をする。
すると藤村がこらえるように笑い出してなにやら恥ずかしい気持ちにさせられた。

4号館は1階から5階まで全ての階に扉が有るがその全てに鍵をかけるだけで
教室には鍵をかけていない。
というよりは元々付いていないのだ。

「たしかにホームレスごっこはしないですみそうだけど…明日までこのままか?」

「そやな。」

「ほんっと最悪。」

「自分正直すぎ。」

フン。とそっぽを向いて壁際の長机の椅子に座る。
藤村は前の席に腰掛けた。

「あーあ…明日なんて言い訳しよう。」

「何を」

「今日と同じ服で授業受けるんだぞ?誰かが邪推しそうじゃないか。」

「えぇやん。彼女とヤってました。で。」

「っばか!!」

「っうわ!」

水野がカバンを藤村の顔面に押し付ける。
堪らず藤村が叫んだ。

「何すんねんどあほう!」

「お前が変なこと言うから悪いんだよ!!」

「なんや!19やろ?彼女の一つや二つ………って………」

其処まで言って、一つの可能性にぶち当たった。
まさか。こんな美少年。いや青年。を、女の子が普通放っておくものなのか。

「もしかしてお前…童貞なん?」

その瞬間水野の顔が沸騰したように赤くなった。
そのままカバンに突っ伏してしまう。

「悪いかよ!!どうせ俺は性欲が全然ないおかしな人間だよ!!!」

真っ赤になりながらも水野は言う。

もういっそこんな美青年で童貞とくると聖人君子って感じで逆に手が付けられないのかもしれないと
シゲがなんとなくそう思う。しかも性欲が全然ないおかしな人間?
おかしいっていうか、じゃぁ一人でしたことも無いのだろうか。

藤村は面白くなってきたのか水野を問いただしてみた。

「あれか?一人でしたこともないん?」

「…それぐらいはあるよ…中学校の時に。」

「中学!」

「悪いか!!」

「何?!それ以降ナッシングなん?」

「だって…気持ち悪くて…べたべたしたし。吐き気もしたし………匂いもいやだし。」

快楽、というものをコイツは知らないのだろうか。
思わずそう思ってしまった。

そして同時に考える。こいつが快楽というものを知ったらどうなるのだろうと。
藤村は、自分の中に確かな欲望があることを知った。
顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに話しては自爆してカバンに突っ伏して。

そんなコイツの顔が…どんな風になるんだろう。

思った瞬間、藤村は水野にキスを仕掛けていた。


「?!」


閉じられた唇をぺろりと舐める。

「な…なななななな…!!!!」

「しーっムードを大切にせぇっちゅうねん。」

「何すんだてめぇ!!!」
作品名:Last/prologue 作家名:神颯@1110