Last/prologue
「何って…キス。まさかキスもしたことあらへんの?」
「うるさいな!!!」
「あー…ないんや。」
ほならファーストキスいただき。と藤村は再び唇を合わせる。
「んっ!!」
「口開けて。」
「え?」
水野が慌てたように動揺した瞬間を見逃さずに藤村は舌を差し入れる。
もがくようにあたふたしている手を左手で抑えて右手で顎を固定した。
口内を丁寧に探っていく。
「っふ…んっ」
舌と舌を絡め合わせて唾液を混じり合わせる。
水野にとっては始めてのディープキスだった。
藤村にとって水野はていの良いおもちゃのように感じられた。
初めてということも合ってか反応が新鮮で面白い。
いつもやってる手馴れた女達とはずいぶん違う。
興奮、する。
「ふあっ…!ぅ…ふ…じ…むらっ!!!」
キスをされながらも必死に叫ぶが相手は冷めてくれそうにもない。
それどころか背筋を這い登るような腰に来る何かを感じてしまう。
何だか……怖い。
「ん…っ…!!!やめ…ろっ!!!」
力が抜けていってしまいそうな体を??咤して水野は椅子から立ち上がった。
支えられていた顎をも振り切って。
唇が離れた。
右手だけが、まだ机に縫いとめられている。
完全に息を乱し頬を染めた水野がはぁはぁと息を吐きながら見下ろしてくる。
屋上にいたときとは逆だな。と藤村は思った。
「なぁ…感じたやろ?」
「…え…?」
「気持ちよくなかったん?」
「そんなの!!」
気持ち悪い。とそういおうとしてそう言い切れない自分が居るのを水野は知った。
生理的嫌悪は何処にも無かった。
おかしい、男同士のはずなのに。
100歩譲って水野に性的な何かが欠落しているにしたって
男同士でキスはヤバイだろ。
っていうか何でされたんだ俺。
何でしてんだよ藤村!!!
「…お…まえ…いきなりなんで………。」
「お前としたくなってん。キス。おかしいなぁ、昼間はあんなにお前のこと嫌いやったのに。」
「ならそのまま嫌いなままで居ろよ!!」
「そんなん…自分昼間とおおちがいやんか。ころころ表情変えて、可愛いったらしゃーない。」
「可愛い!?」
男の自分が?!開いた口もふさがらないとはこのことだろうに。
水野は口をパクパクさせて動揺しまくりのようだ。
「しよ。水野。続き。」
「すすすするってな…何を!!」
「だから続き。キスとそれ以上のこともしたる。」
「!!!!!」
「お前性欲が無い言うたよなぁ。大丈夫やでちゃんとある。今ので確信したわ。
お前の何かがずーっと隠したがってただけやろ。」
魅入られる。動けない。
その瞳にひきつけられてしょうがない。
ごめんシゲ…お前と以外キスしないって約束だったのに…
ごめん…ごめん…なんか…もう無理だ。
大昔、もう顔も思い出せない男の子と約束したのを覚えている。
親友だった彼。
けれどある日突然居なくなってしまった彼。
でも水野の中にひたすら居座り続けた彼。
きっと、性欲が無いのはシゲじゃないからなんだ。
初恋はあの時始まってあの時終わった。
あれからもう10年たつのに。
俺、藤村に食われるのかな。
そんなことを思って水野はぎゅっと目を閉じた。
それが、合図だった。
作品名:Last/prologue 作家名:神颯@1110