きみがいた夏
心地よい音と同時に光が弾け、目の前が真っ白になった。
「……ん」
ベッドに横たわった少女――サエは、ゆっくりと目を開けた。ぼんやりとした表情でしばらく天井を見つめ、「……ああ」と呟く。夢だったんだ、と。
ゆっくりと身を起こす。窓の外では、満月がやさしく地上を照らしている。
「……ルナ」
彼女の幼なじみ、竜堂ルナが突然姿を消してから、もうすぐで一年になる。ルナのいないまま、サエや同学年のまなみたちは5年生に進級した。そう、ルナを失ったまま。
「はあ……」
――行かないでよ、ルナ!
必死に叫んだ、あのときの自分。ルナの暗い影。「ごめんね」と言った、決意のこもった声。もう戻ってはこないと、そう言ったのだ。
ルナがいなくなった理由は、今なお定かではない。さまざまな噂が飛んだが、すべては憶測に過ぎない。真実を知っているのは、ルナ本人だけだ。
「……ルナ」
そっと窓際に歩み寄り、月を見上げる。月はスペイン語で「ルナ」。名前のとおりの少女だ、とサエは思う。すべてを明るく、やさしく照らしながら、その内には秘めたものがたくさんある。
「ルナ、あたしね」
そこで言葉を切り、続きをためらうように俯く。結局、その想いは、胸の内でだけ明かされた。
(あたし、あんたが戻ってくるの、ずっと待ってるから。あんたが『どうしてもやらなきゃいけないこと』を終わらせて、ここに帰ってくるその日まで。ずっと、ずっと待ってるよ、リュナ……)
幼い頃のニックネーム。それすらも口に出せなかった不器用な少女は月を見上げ、そっと……少しだけ、微笑んだ。
今年もまた、夏祭りの日がやってこようとしていた。
【おわり】