その後
終わったのだろうか。
……この拳はあいつを捉えた。
立ってはいるが、もう既に満身創痍だ。
第一、姿も保てなくなったし……
天帝……もとい力を使い果たし幼子の姿に戻ったヒーローは荒い息のまま、しかし後一つ、最後の使命感に強くつき動かされて、その為だけに立っていた。
このかつてない壮絶な戦いの中で檄を飛ばし援護してくれていた地上七世界の英雄達、
倒れてしまった兄達。しかしその生命は再びこの地のどこかに息を吹き返している。
そして無二の存在である養父と、同じく人間界の人の娘。
……仲間。そこに皆がいる、彼等の希望と夢がある。
だから……戻らなくては。
ありがとう、とヒーローは自分を支えてくれた多くの者達に心の中で礼を言った。
そして赤の力よ、お前の為に自分は青の邪悪な者を倒……
そう思い討ち倒した男の方を見て、おやとヒーローは思う。
倒れ冷たくなっていた敵の元に、同じくもう物言わなくなりしばらく経っていた弟の亡骸が辿り着いていた。
二体はいつから側にあったのだろうかと、この事にもヒーローは驚いていたが、それ以上に彼の目を向けたものは……バラクーダのどこか哀しそうなその表情であった。
それは海人界の王と王子もろともを裏切った時の邪気に満ちた顔でもなく、
自分との戦いの最中に見せていた鬼神さながらの形相でもなく、
……弟を手に掛けた時の無表情でもなく。
ただ倒すべき悪鬼、そう思っていたその男の表情は哀しそうであった。
そしてシルヴィスの亡骸が彼に沿うように空間を漂っている。
巡り合った兄と弟。二人の肉体は何れ消滅してしまうのだろうか。
寂しい哀しいと。そう思っていたバラクーダの表情はまた、この上なく穏やかなものにも見えた。
(……お前は)
……帰らなければならない。皆が待つ場所へと。
そう思い立ち、強く優しき赤の力を継いでいた英雄は敗者達の屍を振り返る事なく歩き始める。
ややあって少し立ち止まり、ただ……自らがそうであったように、激しき青の力もまた、生命を蘇らせる事が出来るんだぞと、ヒーローは思う。
そして今一度だけ、彼の方を向く。
無論言葉はない。ただ、シルヴィスを沿えた物言わぬバラクーダの姿。それは。
最後に見た奴の姿はそれを拒否しているように思えた―