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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 20

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 ピカードと比べても、多少力は勝っているが、彼には水のエナジスト特有の回復能力がある。更に、メアリィは回復能力に特化しており、その力が役に立つことは間違いない。
 ここにいる皆と比べ、ジェラルドには特筆すべき事がなかった。これまでの修行の中で、ジェラルドは自らにはこれと言った特徴がない事を知らしめられていた。
「みんな、はっきり言ってすげえよ。でも、オレには何にもない……。手分けして、オレと同じチームになったみんなに、迷惑かけんじゃねえかって、不安なんだよ……」
「うふふ……、そんな事気にしてたの? ジェラルドらしくもない」
 ヒナは不意に笑い声を上げる。
「そんな事だと、オレは真剣に悩んでんのに……!?」
 ヒナはジェラルドの鼻先に指を指し、ウインクした。
「ジェラルド、あなたはスターマジシャンの所に行きなさい」
 言葉を遮られたかと思えば、勝手に戦う相手を決められてしまった。
 ジェラルドは面食らいながらも、ヒナから理由を聞く。
「な、何でオレがあの青い魔女の所なんだよ!?」
 ジェラルドはエナジストでありながら、そこまでエナジーを得意としない。
 エナジーは補助的なものと決め、戦闘は剣を用いた物理攻撃がほとんどであった。
 そうした状態であるため、魔女の魔術という妙技の前には太刀打ちできないと思ったのだ。
「自分じゃ気付いてないのね……。じゃあ教えてあげる、あなたから読み取った力をね……」
 ヒナは不意に、ジェラルドの腰にある暗黒剣、ダークサイドソードを指差した。
 ジェラルドは怪訝そうに眉を寄せた。
「それって確か、呪いのこもった特別なものよね? そんな剣を持っていて、あなたは平気でいられる……」
 ジェラルドはまだ、ヒナの意図を理解しかねていた。
「……平気っつっても、初めてコイツを手にした時は、剣に意識を取り込まれそうになったぜ」
「そうね、その剣から感じられる力は、持つ者さえも破壊するような、そんな強烈な呪いね……」
 ヒナの言葉は歯切れが悪く、なかなか本心を話そうとしない。
「何なんだよ、さっきから訳分かんねえことばかり言いやがって……。はっきり言ってくれよ!」
 ジェラルドはしびれを切らしていた。
「ふう、自分で気付いて欲しかったんだけど、仕方ないわね。ジェラルド、あなたには一切の呪い、いえ、呪術の類が通用しないのよ!」
 ヒナが言い放つと、一瞬の間が空いた。
「…………っへ? それだけ?」
 その後に、ジェラルドは間の抜けた声を上げる。
「あれっ!?」
 何一つ理解していない様子の、ジェラルドの間抜け面の前に、逆にヒナが驚いてしまった。
「……まさかジェラルド、あなた何も知らないの……?」
 ジェラルドは至極当然のごとく頷いた。この反応により、ヒナの驚きは増大する。
 ヒナが読み取ったジェラルドの能力、それは呪術に対する鉄壁とまで言える防御能力であった。
 ジェラルドの暗黒剣は、かつてカーストの振るっていた、大鎌からこぼれ落ちた、暗黒物質から創り出されたものである。その闇の力は、魔性の者でなければ持つだけで気が触れるほどであった。
 カーストが大鎌を死神の鎌、デスサイズとして使っていた頃から、その暗黒の力は相当なものであった。
 刃先は毒の呪いなどというものに満たされ、それは呪いの術者を討たぬ限り、決して消えることのない呪いだった。
 そのような曰く付きの素材から作り出されたものが、ジェラルドの得物である。他の者が振るうどころか、触れただけで意識が剣に吸い取られてしまう、危険極まりないものであった。
「……そういえば、ジェラルドが初めてその剣を持った時、一時だったが、剣に意識を支配されていたな」
 ガルシアは、ジェラルドと共に、世にも珍しい素材を使って剣を作った際に、ジェラルドに変化があったことを回想した。
 ジェラルドもあの日、チャンパ村で、不思議な力で武器を作り出せる老婆に、剣を作ってもらった時のことを思い出した。
「そういやぁ、そんな事もあったな……。あれから色々ありすぎて忘れてたぜ……」
 あはは、とジェラルドは小さく笑った。
「シンに斬られかけたというのに忘れていたのか? とんでもない奴だなお前は……」
 苦笑するジェラルドに、ガルシアは呆れた様子である。
「シンに斬られかけたですって? 一体どうして、あの子が……」
 シンは、仲間に刃を向けるような真似は絶対にしない。彼がどのような人物か、姉であるヒナにはよく分かっている。それ故に浮かんだ疑問であった。
「実を言うとヒナ殿。ジェラルドの剣は、シンがおもしろ半分で作らせたものなのだ……」
 シンはあの日、偶然に所持していた暗黒物質を使って、剣を作らせようとした。
 その結果、チャンパ村、あるいは大陸一の鍛冶職人である老婆が、仕事の際に力を借りる、竈の神の怒りを買うことになってしまった。そして、神の怒りは村を滅ぼさんとする異変にまで発展した。
 時を同じくして、ジェラルドにも異変が起きた。暗黒物質からできた剣に、意識を取り込まれてしまったのである。
 しかし、ジェラルドはすぐに意識を取り戻し、ダークサイドソードを振るって、村の危機を脱した。
「ふうん、話を聞く限りじゃ、やっぱり魔の類は効かないようね」
 一時は剣に、気が触れたジェラルドであったが、それを見事に無効化している。
 ヒナの読み通り、ジェラルドには魔術の類が通用しないならば、スターマジシャンとの戦いにかなり有利となる。
 あの魔女がどのような魔法を駆使しようとも、ジェラルドには一切通用しないからである。
「ジェラルド、あなたはスターマジシャンに対してかなり有利に戦えるわ。絶対にあの魔女の所に行くべきよ」
「オレにそんな力があったなんてな……。これでみんなの役に立てるのか?」
「もちろんよ、きっと強力な盾役になれるわ!」
 ヒナは、ジェラルド以上に自信を持って言った。
「そ、そうか? いや、そうだよな! オレが役に立たないはずないよな!」
 深刻に悩んでいたかと思えば、ジェラルドは単純なもので、簡単に自信を取り戻した。
「強力な盾には、同じぐらい強い、矛が必要ですよね? ヒナさん……」
 イワンは静かに、そして意味深に言う。口調はいつも通りであるが、その内には強い攻撃性があった。
「ボクも行きますよ、あの魔女の所に! ボクは許せない、姉さんを危険な目に遭わせただけでなく、ボク達の故郷を魔界にした。スターマジシャンは、ボクの手で消し去ってやりますよ!」
 イワンは静かな怒りに震えていた。それもそのはずである。イワンは一時、スターマジシャンによって、ハモを殺されたと考えていた。
 憎しみの先は、ウェイアード中に瘴気を振り撒く事を、実行した彼女に向いていた。
「イワン……」
 ヒナは少し心配そうな目を向ける。
 イワンは、ハモをデュラハン達に殺されたと思ってしまったときに、怒りや哀しみ、そして憎しみによって最強のエナジーを手にしていた。
 最強のエナジーとはいえ、イワンの『ブレイン・コネクト』は脆弱性の多いものでもある。使い手の心が、特定の感情に支配されていては、隙ができて逆に付け入れられてしまう。