黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 20
「ヒナさん、ボクはヒナさんの特訓のおかげで、最強クラスのエナジーを使いこなせるようになりました。それに、何もボクは魔女に対する私怨から、奴を倒したいと考えているのではありませんよ」
「…………」
ヒナは無言で、そしてその瞳から目を離すことなく、イワンの言葉を受け止めていた。
ヒナに向けられる目は、憎しみや怒りに支配されておらず、真っ直ぐな気持ちの込められたものであった。
「ふふふ……」
不意に、ヒナから笑い声があがった。
「ヒナさん、何を笑っているのですか!? ボクは本気ですよ!」
「いえ、ごめんなさい、悪い意味じゃないわ。ただ、一月前に比べて、ずいぶん心が強くなったんだな、と思ってね……」
一月前、イワンの目には、恨みの感情が強く表れていた。
たとえデュラハン達と刺し違えてでも倒す、そんな気持ちがよく分かったが、今は違っていた。
今は、勝利を確信した、自信のある瞳をしている。このような瞳を持つ者が魔女に負けることはないであろう、ヒナは思う。
「イワン、あなたの気持ちはよく分かったわ」
ヒナは歯を見せて笑った。
「あなたなら、スターマジシャンを倒す矛にでも剣にでもなれる。あたしが保証するわ、想う存分ギタギタにしてやりなさい」
イワンもニッ、と笑って見せた。
「ええ、きっと倒してみせます! ハモ姉さんのために」
「イワン」
ハモが呼びかけた。
「私では、デュラハン達を相手取るのは無理。だからお願い、私を助けようと散っていった神官達の仇を討ってちょうだい」
「はい、必ず!」
イワンは胸元で拳を握りしめた。
「イワンにジェラルド、後一人誰か行って欲しいわね……」
ヒナは仲間達を見回した。
スターマジシャンを相手するためには、もう一人戦力になりうる者が必要とされた。特にも、イワンを手助けするために、彼にはない純粋な力を持つ者である。
「……よし、決めたわ」
ヒナは順繰りに仲間を見た後、ロビンに視線を向ける。
「オレ、ですか?」
「そうよ。あなた、これまでこの子達のリーダーやってきたでしょう? リーダーなら、一緒に行かないとね」
「リーダー……」
ロビンはこの言葉に、少し疑問を抱いた。
確かにこれまでの旅では、皆のリーダーとして歩んできた。戦いでは、仲間を叱咤したり、鼓舞することもあった。
しかし、今の状態で、一番リーダー然としているのは、どちらかと言えばヒナである。
そんな彼女からリーダーなどと呼ばれ、本当に自分がふさわしいのか不安に感じたのだ。
「どうしたの、ロビン?」
そんなロビンの心を知ってか知らずか、ヒナは戸惑うロビンに不思議そうな顔をする。
「いや、オレはリーダーなんかじゃ、ないですよ……」
ロビンは胸の内を明かした。
「確かに、オレにはもの凄い力があるかもしれません。ですが、今はイワンの方がずっと強いし、シンやヒナさん至っては、オレなんか足元にも及びませんよ……」
自分には、凄まじい力がある。これについては、ロビン自身がよく分かっている。しかしそれはあくまで、力が暴走しているだけであって、本当の力とは呼び難い。
今ここに立っているのは、特別に強くない、普通の少年、ロビンである。最強のエナジーを持っていたり、魔術を無効化させられるような者と並べるような気がしなかった。
「ふふ……」
ヒナはまたもや不敵な笑い声をあげる。
「ロビン、何もリーダーは強くないといけない、なんて事無いでしょ? リーダーに必要なのは人柄よ、違うかしら?」
「人柄……。ですが、事は重大です。やっぱり実力がないと、意味がない……」
「バカが」
不意にジェラルドから言われた。
「お前が何悩んでんのか知らねえが、これまでオレ達が何でお前について来たと思ってんだ? 少なくとも、お前の力に媚びてた、ってのはないぜ」
イワンも同じように呼びかける。
「そうですよ、ロビンの言葉にはこれまで何度も助けられてきました。今更そんなに自信をなくされては存分に力を発揮できませんよ!」
ジェラルドはニッ、と笑いかけた。
「まっ、そういうことだロビン。オレ達と一緒に行こうぜ!」
「二人とも……。分かった、至らないところがあるだろうが、オレも行こう。一緒にスターマジシャンを倒そう!」
ロビンが強く呼びかけると、二人も力強く頷いた。その様子は、やはりロビンこそがリーダーにふさわしい事を物語っているようだった。
「うん、良かったわ。ロビンが自信を持ってくれて」
ヒナは満足げに頷いていた。
「……さて、他の編成はどうしようかしらね?」
ヒナは再び、ロビン達を除いた仲間を見回す。
デュラハンの配下は、まだ二人いる。獣のような召喚師に、シンでさえも歯が立たなかった、底の知れぬ剣士である。
「ビーストサマナーとデモンズセンチネルの事ですね? 彼らはそれぞれ、火のエレメンタルロック、そしてギアナの地に潜伏しているようです」
ハモは予知のエナジーにより、彼らが、暗黒錬金術の礎を築こうとしている場所を特定していた。
「火のエレメンタルロック、マグマロックの事か。あの辺には以前行ったことがあるな……」
ガルシアは、ゴンドワナ大陸西部に位置する、例のエレメンタルロックを思い出した。
「土地勘があるみたいね。ならガルシア、あなたにはそこに行くリーダーになってもらえないかしら?」
ヒナが言う。
「俺が奴と……、ふむ、確かシバを浚ったのはあの獣だったな。いいだろう、俺がシバを救ってみせる。必ずな……!」
ガルシアはシバに対して、特別視している所があった。
シバを救うためであれば、灯台の頂上から海へと飛び込んだことさえあった。
今回も、得体の知れない、デュラハンの手下である獣の方に挑もうというのも、シバが関わっていたからである。
「俺がシバを救ってみせる、ね。ガルシアって奥手に見えてたけど、意外ね」
ヒナはガルシアの口調を真似し、邪な笑みを向ける。
「な、なんだヒナ殿、その顔は? シバはとらわれているのだ。仲間なら助けるのが普通であろう!?」
ガルシアは、自分自身が何故焦っているのか分からなかった。
ヒナは、シンと正反対な性格をしているわりに、姉弟どこか通じるところがあるのか、似たような言動をしてくる。
以前にも、シンから似たような冷やかしをされたことがあった。その時にもガルシアは落ち着いていられず、焦ってしまった。
軽薄なシンとは違い、ガルシアはシバに対して特別な感情を持っている事に、ガルシア自身が気付いていなかった。
妹のジャスミンよりも、更に幼いシバに抱く感情は、もう一人仲間内に妹がいる、という程度のものである。
そのはずが、いつの間にやら、四つも年の離れたシバへの感情が恋心になっているなど、ガルシア自身で気づけるはずもなかった。
「どうしたの? さっきから真っ赤な顔して黙り込んじゃって。そんなに彼女の事が心配かしら?」
ヒナはいやらしく問いかけてくる。
「心配なのは、確かだが……」
ガルシアは先ほどから、胸に何やらもやもやするものを感じていた。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 20 作家名:綾田宗