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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 20

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「何する、ああ……!」
 デュラハンがイリスを封じた石板をかざすと、シバは何かに束縛されたように動けなくなった。
 僅かに動く目だけで、デュラハンを観察すると、石板がギラギラ輝きを放っている。その輝きがシバの動きを止めていたのだ。
「これからイリスを貴様の体内に送り込む。貴様の意思は無くなり、イリスが表れるであろう、しかし、人間に憑依したイリスなど恐るるに足りん。すぐさま我が一部としてくれよう!」
 瞬間、シバは心臓を中心に、熱い力が体に流れ込んでくるのを感じた。
「っ! あ、熱い! か、体が……、溶ける……」
 シバの変化に共鳴するように、石板は更に輝きを増した。その輝きは非常に熱く、太陽のような存在であった。
「ふぐぐ……、くっ……」
 シバは力にあらがい続けたが、終いには屈し、脱力する。
 気を失ったと思われたシバは突如、その背中に虹色に輝く翼を広げ、体勢を立て直した。
「おお、イリスが顕現したか!?」
 デュラハンは言った。シバにイリスが顕現すれば、その後はそのシバを取り込むことでイリスとの融合は成功し、デュラハンは天界最強の力を得ることになる。
「さあイリスよ、顕現するのだ!」
 しかし、デュラハンの思惑とは裏腹に、虹色の翼は消失していく。同時にシバも倒れてしまった。
 そして次の瞬間、シバの背中が激しく輝き始めた。石板の束縛から逃れ、シバへと憑依したおかげで、石板の封印が解け、イリスは直接的に外へと出ようとしていたのだ。しかし。
「ぎゃあああ! 痛い! 痛い! ああああ……!」
 イリスという、高エネルギー体が人間の皮膚を通って外に出るのは、宿主にとってかなりの激痛を伴う物だった。これが続けば、痛みのあまりに、シバが絶命する危険があった。
 シバに宿ったイリスは、それを察知したかのように自らの行動を止めた。
 イリスは唯一移動できる道、シバと石板のギラギラした架け橋を渡り、石板の中へと進んで再び封印された。
「ちっ! 強情な奴よ……!」
 イリスは何が何でもデュラハンとの融合は阻止しようというつもりであった。そして何より、シバを死なせてまで顕現しようとせず、シバを苦しめないよう、自ら封印される道を選んだのだ。
「あくまでアネモスの巫女を守らんとするか……、だが、貴様が意地を張っていては、巫女の苦しみは増すばかりぞ……」
 シバに宿った後、直接的に抜け出し顕現する事は当然であるが、イリスを身に宿すことそれ自体がシバを衰弱させる事であった。
「ふん、まあいい。それならば根比べといこう。仲間をみすみす傷つけ続けてまで我との融合を拒むか、それとも根負けして我が一部となるか。女神の慈悲とやらを見せてもらおう。ふははは……!」
 その後もデュラハンの、イリスへの精神的攻撃は続くのだった。
「…………」
 センチネルは何もせず、一言も発する事なく、ただデュラハンの行動を静観していた。
 ふと、センチネルは視線をシバに向けた。すると徐にシバへ歩み寄るとしゃがみ込み、シバの上衣を剥ぎ取った。
「む、貴様。何をしておる?」
「ふん、デュラハン、これを見ろ。イリスとの融合は、当分不可能だ……」
 センチネルが見せた、融合を不可能にするもの、それはシバの小さな背中であった。
 先ほど、シバへイリスを憑依させた時、イリスが無理に外へと抜け出そうとしたため、シバの背中は焼けただれたような傷ができていた。
「それがどうしたというのだ?」
「……物忘れの激しい奴だ。俺が言ったシレーネからの言伝を忘れたか? アネモスの巫女の体は潔白でなくてはいけない。血に濡れるようなことがあってはならない、と言ったはずだ」
 デュラハンは思い出した。
「確かにそのような事を言っておったな……。ぬ、という事は……!?」
 シバの傷が治るまで、再度イリスを取り込ませることができない事に、デュラハンは気付いた。
 しかし、ならば傷を癒せばすむ話である。
「巫女の傷を塞げば、それで……」
「生憎だったな、デュラハン。俺も貴様も治癒のエナジーは持っていない上、シレーネは出払っている。……回復できる者がもう一人いたが、そいつは貴様が斬り捨てたばかりだ。大人しく巫女の治癒を待つのだな……」
 デュラハンの苛立ちは増すばかりであった。
「手間ばかりかけさせおって、イリスめ! しかし、己が行動が確実に仲間を傷つけることになるとこれで分かったであろう。大人しく従うべきであろうな、仲間を傷つけたくなくば!」
 ふはは、と高笑いを上げるデュラハンを後目に、センチネルはシバの服を元に戻した。
 これを以て、イリスは抵抗できなくなってしまった。シバを傷付けまいという心が、必ずイリスに表れるであろう。
 魔王デュラハンの宴は、間もなく始まろうとしていた。