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家に帰り着くまでが旅行です。

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帰宅中



凛は日本に向かう飛行機に乗っていた。
隣の席には遙がいる。
将来のことで悩んでいた遙は凛が連れていったオーストラリアで夢を見つけたらしい。それも、凛と同じ、世界を目指すという夢だ。
旅先でいろいろと問題は起きたが、理想的な結果が出て、凛は大満足である。
ふと。
遙がため息をついた。
あれ?
悩みは解消されたんじゃなかったか?
凛は心配し、遙にたずねる。
「どうかしたのか?」
「……帰ったら家の掃除をしなければいけない」
「おまえ、家庭的って言うより、所帯じみてんな」
からかうように凛が言ったのに対して遙は返事せず、ふいになにかを思い出した表情になり、それから眼を伏せた。
その瞳は暗い。
「……そういえば」
重い声で遙は言う。
「オーストラリアに行く予定じゃなかったから、安いと思って賞味期限の近い食材を買ったんだった」
「え……」
「それが冷蔵庫の中にたくさんある。サバとか……サバとか……」
「いきなりオーストラリアに連れていった俺が悪かった!」
凛は謝った。
いきなりすぎたのも、強引すぎたのも、ちゃんと自覚している。
予定外に遙が家を空けることになって起きた問題については、自分が責任を取るべきだろう。
凛はきりっとした表情で宣言する。
「その食材の消費、俺も手伝う」
こうして凛はオーストラリア帰りに遙の家に行って食事することになった。



神社へ続く石段を凛は遙とともにのぼっていた。
石段を半分ほどのぼったところにある一の鳥居の手前で左に曲がった先に遙の家がある。
一の鳥居が近くなってきたとき、神社のほうから石段をおりてきたおばあさんが遙に声をかけてきた。
「おや、遙ちゃん」
遙は少し頭を下げた。つられるように凛も頭を少し下げた。
「そういえば、ここ二、三日、遙ちゃんを見かけなかったね。どこかに行ってたのかい?」
おばあさんからのその質問に対して、遙は冷静に答える。
「ふたりでオーストラリアに行ってきました」
凛はぎょっとする。
おばあさんも眼を見張っている。
いや、遙の言ったのは事実だが……!
遙はさらに言う。
「オーストラリアで、ふたり、同じ道を進んでいくことを決めました」
それも事実だが……!
誤解される……!
「そうかい」
おばあさんの顔から驚きが消え、代わりにあるのは穏やかな表情。
「まだまだ子供だって思ってたけど、遙ちゃんも、もう来年の春には高校を卒業するんだね。いつのまにか成長してたんだね」
しみじみと言うと、おばあさんは凛の姿を眺めおろした。
「ああ、良さそうな相手じゃないか。体力ありそうだし、よく働きそうだ」
絶対、誤解してる!
「まだちょっと早い気もするけど、早いほうがいいときもある」
おばあさんは、うんうん、と二度うなずく。
それから、おばあさんは石段をおりはじめた。
「じゃあね、遙ちゃん」
遙はまた頭を少し下げた。
おばあさんは遙の横を通り過ぎるときに、言った。
「こういうお祝い事は早くみんなに知らせてあげないとね」
……!!!
凛は衝撃を受けた。
おばあさんはどんどん石段をおりて遠ざかっていく。
「凛、行くぞ」
「ちょっと待て!」
自分の家のほうへと進み始めようとした遙を凛は止める。
「今の、絶対誤解されたぞ」
「なんの話だ?」
「俺とおまえはふたりでオーストラリア旅行して」
「事実だろうが」
「結婚を決めてきたと思われたぞ!」
あのおばあさんは結婚とはっきりとは言わなかったが、発言内容から考えるとそう誤解しているのは間違いないはずだ。お祝い事、と言ったのは決定打である。
「おまえと俺が結婚すると思ってんぞ。それを、これから、まわりに言うつもりだぞ」
このままだと、誤解が近所中に広まってしまうだろう。
そうなるまえに。
「ちゃんと誤解をとけ」
「……誤解なのか?」
いつもの冷静な遙の声。
けれど、その質問の意味がわからず、凛は戸惑う。
「え?」
すると、遙は言う。
「結婚する気はないのか?」
こちらに向けている瞳は水のように澄んでいる。
凛がずっと心惹かれ、遠く離れていたときも忘れることのできなかった瞳だ。
だから。
凛は言う。
「あるに決まってるじゃねぇか!」
ぶっきらぼうになったのは、火を噴きそうなほど恥ずかしくて、それを隠したかったからだ。どうせ、隠しきれてはいないだろうが。
将来のことで悩んでいる遙をオーストラリアに連れていったのは、いきなりすぎたし、強引すぎたのも、わかっている。
だが、よっぽど大切な相手でもなければ、こんな無茶はしない。
恥ずかしくて、ついそらした眼を、凛はふたたび遙へと向ける。
遙の顔を見る。
遙は、笑った。
その口が開かれる。
「じゃあ、誤解じゃないから、とかない」
そう、いつもの冷静な声で、いや、いつもと比べると若干温かい声で告げると、遙はすっと眼を違う方向にやった。
遙はふたたび石段をのぼり始めた。
凛はハッとして、あとを追い、横に並んだ。
「ってことは、おまえもその気があるってことだな?」
問いかけた。
だが、遙は返事しない。
しかし、違うのなら否定するはずだ。
沈黙は肯定。そうとらえていいはずだ。
凛は遙の腕をつかんだ。
「いつからだ?」
さすがに、遙は立ち止まった。
ちょうど一の鳥居のまえ、左に進めば遙の家だ。
遙はいつもと変わらない無表情を凛に向けた。
「おまえが般若心経を唱えたときだ」
「……なんだその妙なタイミングは」
「最初は、なぜ、おまえが般若心経を唱え始めたのかわからなかった。それで、考えて、おまえがなにかに耐えるために唱えているんじゃないかと思った。そのとき、初めて、おまえが男であることを意識した」
「遅ぇよ」
もっと早くに意識してもらいたかった。
ああ、でも、と思う。
でも、遙はひとつのベッドで寝ている相手が男だと意識して、それでも、そのままでいたのだ。
振り返ってみれば、オーストラリアのあのホテルで遙が主張したことは正しかったし、それは、凛のためになることだった。
あのホテルをキャンセルして他のホテルに行かなかったのは、空室を探す苦労や、野宿の可能性を考えたからで、凛だけではなく遙本人にも負担のかかることだった。
しかし、床で寝ようとしていた凛に、同じベッドで寝るように言ったのは、凛のためだけを考えてのことだ。
いつもクールで、他人とはあまり関わろうとしない遙だが、本当は冷たくなくて、優しい。
それを凛は知っている。
ずっとまえから、知っていた。
凛は遙の腕を放した。
そして、今度は遙の手のひらに自分の手のひらを寄せる。
「……賞味期限の近い食材を消費しに行くか」
「そのまえに家の掃除だ」
「わかった。それも手伝う」
手をつないで、遙の家へと歩き出した。







遙の家の居間。
ちょっと待っていろと遙に言われて、凛は待っていた。
しばらくして遙がもどってきた。
「おまえが気にしていたから、見せてやる」
遙がほんの少し得意げに、手に持っているなにかを凛のまえへと進めた。
それは……。
サバの抱き枕、だ。
「…………………………うん。そうか」
反応に困った凛は、とりあえず、相づちを打っておいた。
遙は凛の反応の薄さに気づいていない様子で、言う。
「名前は、SABA.ちゃん、だ」