For the future !
金メダリストになった凛は、たくさんの祝福と取材を受けることになった。
昨夜の遙と同じ状態だ。
昨夜は、同じ種目で遙が金メダル、凛が銀メダルだったので、ふたり一緒に取材を受けることが多かった。
日本代表のユニフォームを着たふたりがそれぞれのメダルを手にしている写真が、今朝の日本の新聞に大きく掲載されていた。
ニュース番組のスポーツのコーナーなどでも、ふたりがインタビューに応じている姿が何度も放映された。
遙には愛想が一切ないものの見た目がいいふたりで、そこに国際大会での好成績という実力の裏打ちがつき、人気が沸騰した。
一躍時の人となったのだが、オーストラリアにいるふたりはまだそのことに気づかずにいた。
明日はパンパシフィック選手権最終日だ。
遙も凛も明日は試合に出場しないが、遅くまで引き留められることなくホテルの部屋にもどる。
同じ部屋だ。
凛が部屋の鍵を解錠してドアを開けて中に入っていく。
そのあとに遙は続いた。
「なんか、やけに取材が多くて疲れたな」
そう言いつつも凛は上機嫌だ。あたりまえだろう。男子バタフライ100メートルで優勝したのだから。
「そうだな」
遙はいつもの冷静な声で返事した。
今夜の凛に対する取材に、今日は試合に出場しなかった遙までがなぜか引っ張り出されることが多かった。日本国内でふたりの映像や情報が熱望されているからなのだが、ふたりともそんなことになっているとは知らない。
凛がテーブルにメダルや鍵を置いた。
それから、近づいてくる。
その様子を何気なく見て、遙は言う。
「先に風呂に入るか?」
しかし、凛は返事しない。
距離が縮まる。
触れてくる。
次の瞬間にはキスされていた。
唇に、凛のそれの感触。
口づけられ、離れ、また口づけられる。
そうせずにいられないように、強く求めるように繰り返され、やがて、舌が歯をなでた。
遙は口を開く。
入ってきた舌に、自分のそれを差し出す。
心臓がいつもよりも速く、強く打っているのを感じる。
体温が上昇している。あがった熱が相手の熱と触れあうことを求め、そして身体から出ていくことを望んでいる。
少し離れたあと、凛は遙の身体をとらえたまま動き出した。
遙の足にベッドが触れた。
「凛、風呂」
「あとでいいだろ」
乱暴に言った凛の声に、かすかに甘えるような響きがあった。
欲情しているらしい。
だが、それは遙にしても同じで、だから言い返せなかった。今は、予選と決勝の合間に会場内で凛と会っていたときとは違う。抑える必要は無いのだ。
凛に押されて、遙はベッドに尻をついた。
凛は遙と目線の高さを同じにしてから、言う。
「おまえ、今日の試合んとき、観客席から俺の名前、呼んでただろ?」
思わず、遙は眼を見張った。
まさか聞こえていたのか。
その遙の驚きを見て、凛はニヤッと笑った。
「ゴールしたあと、観客席のほうを見ておまえを捜したら、おまえ、立ってたから、そうじゃねぇかと思ったんだ」
つまり、観客席で立っている遙の姿を見て推測したということ。
「さすがに声は聞こえなかった」
凛は顔を近づけてきて、至近距離で告げる。
「でも、届いてた」
凛はロマンチストだ。
だから、こんなことを平気で言ってくる。
こちらとしてはいつも冷静でありたいのに心を揺らされて、困ってしまう。
遙は眼をそらした。
けれども、顔を凛のほうに向けさせられる。
ふたたびキスされる。
上に着ている物をたくしあげる形で凛の手が服の下へ入ってくる。
熱を帯びた身体に、凛の手のひらが触れてくる。
肌をなであげられる。
そして、上に着ている物を脱がされた。
凛が顔を近づけてくる。またキスするつもりだろう。
遙はその身体を軽く押しもどした。
「おまえも、脱げ」
凛から眼をそらして言った。
「わかった」
そう応じて、凛はさっさと脱ぎ始めた。日本代表のユニフォームであるジャージと、その下に着ていたシャツ。早脱ぎは得意なので、あっという間だった。
遙はそらしていた眼を凛のほうに向ける。
鍛えあげられた上半身があらわになっていた。
遙だって鍛えているので、筋肉質のいい体つきをしている。それでも、凛のほうが上だと思う。
脱ぐように言ったのは、自分だけ上半身裸なのが不公平な気がしたからではなかった。
自分の肌に凛の肌を重ねたいと思ったからだ。
こんなこと恥ずかしいから絶対に言わないが、自分は凛の身体が好きだ。
その凛の身体が近づいてくる。
ベッドへと押しやられ、背中をついた。
覆いかぶってくる。
遙の身体に、凛は唇を落としてきた。
凛は遙の感じる場所を知っている。そこに口づけ、攻めてくる。
自分は女じゃないのに、胸にあるそこが反応して隆起する。
「やらしいな、おまえの身体」
からかうように凛が言った。
「うるさい」
だれのせいだと思ってるんだ。
そう思ったが、そんなことを言うのは恥ずかしすぎて、遙は言葉を呑み込んだ。
しかし、その羞恥は顔に出てしまっていた。その顔を眺めて、凛がたまんねぇなと思ったのを、もちろん遙は知らない。
凛は遙が下に着ている物を脱がす。
外に出されたそれは、これまでの行為で興奮している。
そこに凛が触れてくる。
さらに、凛のそれの受け入れ先となるところに指が入れられる。
指が広げようと動くのを感じながら、遙は思う。凛の、指じゃないものが、欲しい。
こんなこと、昔なら思わなかった。凛のせいだ。自分の身体は凛に作り変えられてしまった。
そして、望んでいたものが、中に入ってくる。
その痛みに遙は耐える。
痛みといっても、最初のころほどじゃない。
それに、その痛みがやがて快楽に変わるのを自分の身体はしっかり覚えている。
「ハル」
奥深くまで進入した凛が名を呼ぶ。
「ハル」
その顔が近くにある。
甘い声が降ってきて肌をなでる。
「俺の、ハル」
俺はおまえのものじゃない。
そう言い返せなかった。
だって、今、自分たちはつながっている。
自分は大きく足を広げて、自分よりもたくましい男の身体を深く受け入れている。
凛が口づけてきた。興奮しているのが、よりいっそう興奮する。遙は凛のほうに手をやり、触れ、口づけを返した。
身体の中のものが動き出す。
その動きに、息を乱し、声をもらす。
身体が熱くうずいている。そこをついてほしくて、遙の身体は自然に動いた。
強い快楽。声をあげる。いやらしい自分の声が耳を打つ。そこに凛の荒れた呼吸も重なってくる。
興奮しきった先端に、凛が触れてきた。
頂点に達する。
自分の中で凛が同じ状態になるのを感じながら、果てた。
凛はベッドから上半身を起こした。
そして、隣を見る。
遙が寝ている。
熟睡しているようだ。
健やかな寝顔である。
だが。
あのときの遙の様子を思い出した。
乱れていた。
ふだんは冷静な表情ばかりしているから、その差は大きい。
あのとき、遙は自分がどれほど淫らな顔をしていたか、艶っぽかったか、わかっているのだろうか。
でも、それだけが理由じゃない。
自分が遙を求めているのは。
凛はそっと遙の頬に触れる。
男子バタフライ100メートルの予選と決勝のあいだに遙と会ったとき、ひとりで泳いでいると思うなと言われた。
作品名:For the future ! 作家名:hujio