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For the future !

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大学の門のほうから凛が無表情で歩いて来る。そちらのほうへ遙も無表情で歩いて行く。
夜遅い時間なので、このあたりにいるのは自分たちふたりだけだ。
近づくと、双方ともに足を止めた。
向かい合って立つ。
遙は無表情のままでいる。
だが、凛はふっと笑った。嬉しそうな、優しい、それでいて照れくさそうでもある笑み。そして、それから、遙のほうに向けていた眼を伏せた。
「凛」
呼びかけると、凛はふたたび遙を見た。眼が合う。凛はまた笑った。
凛は歩き出す。
だから、遙は身体の向きを変え、歩き出した。
ふたり、肩を並べて歩く。
大学の敷地内の所々に立つ街灯が白く光っている。
東京の空は岩鳶の空とはやっぱり違っていて、星は見えない。でも、月は見える。今夜は半月だ。
九月に入ったとはいえ夜になっても気温は冷たいと感じるほどには下がらず、空気はぬるい。
「なにかあったのか?」
ゆっくりと凛の隣を歩きながら、遙はさっき電話でした質問をまた口にする。
「いや」
さっきと同じく凛は否定した。
「特になにもねぇよ」
凛はチラと遙を見る。
「ただ会いたかっただけだ」
そう告げると、凛の眼は進む先へ向けられた。
会いたかった。
自分も、そうだ。
会いたかった気持ちを、凛に言われて、こうして一緒に歩いていて、再認識する。会いたかった。そして、一緒にいたい。そう感じながら、遙は歩く。
「……今日は午前は練習して、午後から仕事だった」
仕事。
マスメディアからの取材やテレビ出演のことだろう。
パンパシフィック選手権で金メダルを獲得してから、遙には異常だと感じるぐらい、遙と凛はもてはやされるようになった。
特に凛の人気がすごい。
遙が無口なほうであり、帰国後はインカレに向けての大学の合宿に参加しているのに対し、凛は比較的マスメディアに柔軟に対応している。
それに、凛は華やかな外見をしていて、そのうえ頭も良いことも知られている。卒業アルバムが公開されたりしたように、偏差値高めの進学校である鮫柄学園で水泳中心の日々を送りながらも全教科で十位以内の成績を取り続けていたことや担任教師から一般入試で難関国立大学を受験するよう勧められた話も紹介された。運動方面は競泳の世界大会で優勝するぐらいだし、ハイスペックすぎて近寄りがたいようでもあるが、ロマンチストな一面も暴露されていて、それが特に女性の心をくすぐるらしい。
今、凛に取材や出演依頼が殺到しているようだ。
全部受けているわけではないだろうが、アジア大会の宣伝や、協力企業との関係もある。
「テレビの収録が終わって、同じ番組に出てたひとたちに誘われてメシ食いに行ってた。その帰りだ」
「まさか酒を飲んだりしてないだろうな?」
「してねぇよ。俺、未成年だし」
「ああ、そういえば、おまえは俺より年下だったな」
わざと遙は少しえらそうに言った。
遙は六月生まれなのですでに二十歳で、成人だ。誕生日が六月末でジャパンオープン後で、凛がオーストラリアにもどっていた時期だったため、オーストラリアから誕生日を祝うメッセージが届いた。内容はロマンチストらしいもので、卒業アルバムの作文よりはおとなしい感じだった。凛のポエマー気質は根っからのもので、それをあまり表に出さないようにしているようだが消えて無くなるものではないようなので、遙は生温かく見守っていくことにしている。
凛は眉根を寄せ不機嫌な顔になった。
「来年の二月になったら、おまえに追いつく」
それに対して遙はなにも言い返さず、軽く笑う。ふわりとやわらかい微笑みが顔に広がった。いつもの遙なら他人に見せないような表情だ。気分がいい。
ゆっくりと歩く。
白銀の半月の浮かぶ夜空の下、ぬるい空気の中、遙と凛は行き先は特になく大学の校庭をゆっくりと歩き続ける。
ただ、一緒にいたいだけ。
一緒にいる時間を少しでも引き延ばすようにゆっくり歩いている。
「……俺、まだ十九なんだよな」
しばらく沈黙があったあと、ひとりごとのように凛が言う。
「だが、もう十九で、もうすぐ二十歳になるんだよな」
遙は凛の顔を見た。
凛は遙を見ていない。
街灯に照らし出されたその横顔は整っていて、普段はあまり意識しないのだが、なぜか今夜は綺麗だと感じた。
「凛?」
呼びかけると、凛は遙のほうを向いた。
凛の切れ長の眼が遙をとらえる。
「なんでもねぇよ」
そう言って、明るく笑った。
本当にそうだろうか。本当になんでもないのだろうか。
遙の中で引っかかる。
たとえなにか問題があったとしても相手が踏み込んでほしくなさそうなことであれば踏み込みたくない。それが遙の性格だ。
しかし、ひとりで抱え込まないほうがいい場合もある。助けが必要なら助けたい。
遙は凛をじっと見る。
そのもの問いたげな視線を視線を受け止めると、凛は静かに眼をそらした。
ふと、遙の手に触れてきた。
凛の手だ。
人差し指から小指までの四本の指をつかまえ、握ってくる。
体温が伝わってきて、その温もりが心を揺らす。
こうして触れるのはひさしぶりだ。いや、ひさしぶりと言えるほど離れていたわけじゃない。でも、やっぱりひさしぶりだと感じる。ひさしぶりに触れて、凛の体温を感じて、嬉しいと思う。そんなこと言わないけれど。顔にも出さないけれど。
歩く足が止まった。
校舎の壁の近くまで来ていた。
凛はその顔を遙のほうに向けている。真剣な表情。
その身体を寄せてくる。
遙は凛のほうへ向けて少し顔をあげ、眼を閉じた。
互いの唇が触れあう。
身体が反応して熱くなり、とろけてゆくような感覚に襲われる。
自然に向かい合って立つ形になっていて、キスのあと、遙は凛のたくましい胸に身体を少し預けた。
そのまま、遙は言う。
「続き、しないのか?」
「誘うようなことを言うな、バカ」
「誘うようなじゃない、誘ってるんだ、バカ」
「場所を考えろ、ってか、試合もうすぐだろ」
「……」
凛にはこちらの顔が見えないはずなので、遙は不満を顔に出した。
場所が悪いのは認識しているし、試合が近いのを忘れてはいない。
誘っても凛がしないだろうことはわかっていた。わかっていて、それでも言った。言いたかったのだ。
……甘えてるんだろうな、凛に。
そう遙は思った。
自分らしくない行動だ。
「……そろそろ帰らねぇと」
ぽつりと凛が言った。
だから、本音はこのままでいたかったが、遙は凛の胸に預けていた身体を少し退いた。
けれども、凛は動かない。
遙は凛の顔を見る。
凛は眼をそらし、顔を横に向けた。その顔には苦い表情が浮かんでいる。
少しして、その口が開かれる。
「こういうのを、離れがたい、って言うんだろな」
苦いというよりも、困っているような顔をしている。
俺も、だ。そう遙は思った。
離れがたい。
強く感じる。
でも、言わない。
遙は心を切り替えて、凛から離れた。手はつないだままだが。
「帰れ」
あっさりとした声で告げた。
帰ってほしいわけではないが、もう帰ったほうがいいだろうと頭が判断した。
「……ああ」
凛の返事があって、それから歩き出す。
来た道をもどっていく。
「なあ、ハル」
「なんだ?」
「おまえ、インカレ終わったら、打ち上げあるんだよな?」
「ああ」
作品名:For the future ! 作家名:hujio