夢のあとに
*
次に目が覚めた時はコンクリートの天井がはじめに見えた。カプセル越し…ということはどこかに閉じ込められたのか。
(なんだか長い長い夢を見ていたような気がするな)
遠くから何やら賑やかな声がする。
ここはどこなのだろう、と辺りを見渡すためにカプセルから出ようとする。けれども想像以上に内部は狭く何より目まぐるしく、いる場所が変わったことによる疲労のせいか身体が重たくて身動きができなかった。
動けない身体の代わりに、仕方なく靄がかった思考で何故ここに辿り着いたのかを考えてみる。
そうだ。私は1度死して、それからあの海底で誰かに声をかけられて、誘われるがままに引き上げられて――声をかけられた?
確か、死ぬ前にも誰かに呼ばれた気がする。でも肝心な誰なのかは思い出せない。
「ペコ」
また、あの声が聞こえた。
聞き覚えのある、ぶっきらぼうで、だけどどこか優しさが染み込んだ声色。
思い出した。あれはわたしの一番大事な人の――。
隣を振り向く。プシューという音と共にカプセルもゆっくりとした動作で開く。
視界に映った人物に思わずペコは目を見開いた。何せその相手とは自分の死にゆく様に涙していた九頭龍だったのだから。九頭龍なのはわかったけれど何かが違っていた。辺古山が最後に目にした見慣れた彼の姿とはがらりと変わり、小柄だった身体は随分と大きくなりすらっとした身長は寧ろ今では男子高校生の平均より高いように見えた。顔立ちも童顔というよりかは凛々しいという言葉の方が似合うようになり九頭龍組の跡取りらしくすっかり精悍で男らしいものになっていた。あまりの彼の成長に辺古山は驚き、そんな姿に見入っていた。
「お、辺古山。目ェ覚めたか!」
「辺古山さん、お目覚めになられたんですね!よかったです…!」
再び遠くから誰かの呼ぶ声がした。恐らく左右田とソニアだろう。
「ぼっ…ちゃん、」
これは現実なのだろうか。それが確認したくて辺古山は震える手を伸ばしてみた。彼女の冷たい指先を九頭龍はそっと手に取った。角張った指と大きな手が辺古山の手を包み。温める。
「おかえり、ペコ」
優しい眼差しで自らの額に彼女の手の甲をぴたりとくっつける。その姿に辺古山はなんだかくずぐったくて、胸が満たされるような気持ちでいっぱいになった。
聞きたい事は山ほどある。けれど、今はとにかく大きな成長を遂げた九頭龍をこのまま見ていたかった。
END