夢のあとに
*
暖かく、心地よい浮遊感に包まれているような気がした。
いつの間にか閉じていた瞼を開け、辺古山は今いる場所を見回してみた。深く暗い海底。不思議と息はできた。
私はきっと夢を見ているのだろう。辺古山は思った。坊ちゃんに最期を看取られ、今までにない幸福を感じていた私の気持ちを具現化した夢なのだろうと。
暗い海から見上げると、一筋の光が見えてきた。煌めきがゆらゆらと踊るのを眺めていてなんとなく手を翳した。光は遠くて届かないけれど不思議と重ねているだけで胸の奥が落ち着いた。
「――――」
声が聞こえたような気がした。しかし水が耳に入っているせいでぼんやりとしか聞こえない。気のせいかもな。そう思っていた時だった。
「ペ――…っ、」
途切れ途切れにだがはじめより言葉が明らかになってゆく。
突如水圧が、後ろから徐々に激しくなり押し寄せてくる気配がした。やがて逆流し、ドドドッと辺古山の背中を勢いよく押す。手を伸ばしていた輝きにどんどんと近づいていき、やがて水面から手が差し伸べられた。
「――ペコッ!!」
強い水圧に押されてゆく中、今度ははっきりとそう聞こえた。