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かじみちつめ

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OPE.11の展開を妄想した話



夜のとばりの落ちた国立高度医療センターの屋上に未知子はいた。
病院内にクリスマスツリーが飾られている季節だ。冷たい風が吹いている。
そんな中、未知子は立ち、広がる闇をにらみつけるように見ていた。
そこに、足音。
だれかが屋上にやってきたのだ。
「なにやってんだ」
未知子の背中へ声がかけられる。
「デーモン」
そんな呼び方をするのはひとりしかいない。それに声だけで振り返らなくてもだれだかわかる。加地だ。
おそらく、この病院で未知子の手術についてこられる唯一のスーパードクター。
だが、その腕を認めていても、未知子の加地に対する扱いはぞんざいだ。自分の助手をつとめるよう命令したりしている。そして、加地は文句を言いながらも結局は未知子の言うことをきいてくれる。
「ここ寒くねぇか?」
加地はそれぞれの手で反対側の腕を押さえ身を縮ませながら未知子の隣に立った。
「部屋にもどろうぜ」
「……うるさい」
未知子はうつむき、加地のほうを見ないまま言う。
「寒くて部屋にもどりたいなら、あんたひとりでもどればいい」
キツい口調で突き放した。
放っておいてほしい。今はひとりでいたい。だれかと話をしたくなんかない。
「肺がん、脳転移、狭心症だってな」
穏やかな声で加地が晶の病状を淡々と告げる。
「手術適応外だな」
「うるさい!」
声が未知子の喉を一瞬にして駆けあがり口から飛び出していった。悲鳴みたいな声。
加地に言われなくてもそんなことはわかっている。よくわかっている……!
「おまえ、父親亡くしてるんだろ。それで父親代わりみたいに思ってるんだろ」
しかし、加地は黙らず、話し続ける。
「キッツいよなぁ」
未知子は口を強く引き結んだ。
あんたになにがわかる!
そう怒鳴りそうになって、寸前でやめた。
その台詞は自分も言われたことがあった。
医者だからわかること、経験していることがある。
助けたくても助けられないこともあって、患者の身内に気遣う言葉をかけて神経を逆なでしたときもあった。
おまえになにがわかる。
患者本人でも、その身内でもないおまえに、なにがわかる。
わかったような顔して言うな。
そう言われたらどうしようもない。相手に悪意があるわけではないのもわかっている。今はショックを受けて取り乱しているだけだとわかっている。
たぶん、加地も同じ経験をしてきているだろう。
だから、言いたくなかった。
「……もどろう」
そう加地は告げると、未知子の腕をそっとつかんだ。
未知子は腕を動かして加地の手を振り払おうとしながら、加地のほうを見た。
直後、加地は手を振り払われるどころかむしろ距離を詰めた。
未知子を引き寄せる。
自分の胸へと。
未知子は驚く。
その一瞬あと。
「なにすんのよ!」
自分は加地の腕に抱かれている。そう認識すると、未知子は怒鳴った。
それから、逃れようと暴れる。
だが、加地はやっぱり男で、その力は強い。
「あのさ、こうやってると、おまえの顔は見えない」
加地は未知子を自分の腕の中にとらえたまま言う。
「だから、泣いてても、見えねぇよ」
それは。
つまり。
泣きたい気分なら、泣けばいい。
そういうことだろう。
未知子は鼻で軽く笑った。
「なにキザな台詞言ってんの。気持ち悪いんですけどー」
「あー、ハイハイ、気持ち悪いこと言って申し訳ございませんでしたー」
そう言い返しながら加地はその腕の力を強めた。
抱きしめてくる。
ムカつく。そう未知子は思う。
でも。
顔はなにかに引き寄せられるように加地の肩のほうへ落ちた。
泣いてしまった。



しばらくして、未知子の気持ちが静まってきたのを察したように、加地は腕の力を弱め、未知子から離れた。
加地が去って行く。
「先にもどる」
未知子はそちらのほうを見ないでいる。
「大門、おまえも早くもどれよ」
そう言われて、やはり未知子は返事せずにいる。
遠ざかっている足音を背中で聞く。
ふと、その足音が止まった。
「……俺、おまえのこと好きみたいだわ」
あっさりとした口調で加地は告げた。
え、と未知子は予想外の告白に驚く。
加地は続ける。
「趣味悪ィな、俺」
そのあと、ふたたび足音が聞こえてきた。
やがて、その足音が聞こえなくなった。屋上から加地がいなくなった。
未知子は首を傾け、それから元の位置にもどす。さらに空を見あげる。その顔には少し笑みが浮かんでいた。



作品名:かじみちつめ 作家名:hujio