かじみちつめ
オペ室A。
手術台に身を横たえているのは蛭間先生。
そのまわりには、海老名たん、加地先生、原先生、阿智先生がいる。麻酔担当は博美。
蛭間先生は話す。
「今、眼のまえに横たわっているクランケは、君たちの、四人のドクターの、親父だ。失敗はできないだろう? ええ?」
かぼそい泣いているような声で言い、それぞれを指さしていく。
海老名たん指さして「長男」、海老名たんうなずいて「教授」、阿智先生指さして「次男」、阿智先生「御意」、加地先生指さして「三男」、加地先生「えっ」、原先生指さして「四男」。
この加地先生の反応がおもしろくて、つい書いてしまいました。
なんで俺まで、っていう戸惑いが。
わかりやすいお涙ちょうだいの演技には欺されないし、もともとはそんなに権力にこびるタイプでもないですからね。
蛭間先生は嘆願を続ける。
「力合わせて、俺のオペを成功させてくれえ。頼むなぁ」
海老名たんはうなずく。
しかし、まだ蛭間先生の話は続く。
「ただ、もうひとり長女がいる。大門未知子という長女がいる。ってゆーか、長女呼んでください。大門未知子、呼んでください。ここに呼んでください。大門未知子に全部やってもらいたいから」
蛭間先生は手を動かして訴える。
その手を加地先生が抑える。「もういい、もういい」となだめるように言う。
さらに、博美が蛭間先生に麻酔をかける。「うるさい」
一期メンバーによる連携ですね!
蛭間先生は眠る。
加地先生は海老名たんを見て言う。
「それじゃ、海老名部長、始めましょう」
そううながして、動き始めたが、海老名たんはじっと蛭間先生を見おろしている。
すると。
「長男部長、行きますよ」
そう加地先生は再度うながした。
加地先生www
さっそく「長男」を使ってくるとは!
そして、海老名たんも動き始めた。
オペ室Aの上のほうにあるガラスの向こうから天堂総長と加藤事務局長が見ている。
加地先生が宣言する。
「これより肝拡大右葉切除・尾状葉切除を始めます」
執刀医は加地先生なんだー。
……蛭間先生いわく三男ですけど。
と思いきや、やっぱり海老名たんも執刀している。
その海老名たんの手が止まる。
「おい、十二指腸まで腫瘍が浸潤してるぞ」
「ほんまや」
加地先生は冷静に指摘する。
「まずいですね。膵頭十二指腸切除術を追加するとなると、さらに術式も高度になって全身状態(?)への負担も増えます」
その加地先生の視線を受けて、海老名たんは言う。
「そうなると、結果的に術後経過に悪影響を及ぼす」
その視線は迷うように動き、そして加地先生に向けられて、問う。
「これ、インオペか?」
他の三人の先生たちと博美の眼が海老名たんに向けられる。
位置がハッキリしました。
海老名たんの横は原先生、原先生の向かい側に加地先生、加地先生の横に阿智先生ですね。ただ、加地先生の位置は海老名たんと原先生のあいだぐらいで、阿智先生は患部からちょっと離れた位置にいるように見えます。
海老名たんは判断をあおぐようにガラスの向こうにいる天堂総長に眼を向ける。
しかし、海老名たんはうつむいた。
そんな海老名たんに加地先生は言う。
「ここまで来てインオペとかないでしょう」
海老名たんは加地先生を見返す。
「しかし、この状況で膵頭十二指腸切除術を追加するとなるとそうとうな覚悟が必要となるぞ」
「いい加減にしてください」
加地先生は海老名たんの台詞を断ち切るように言う。
「今、重要なとこですよ」
強い眼差しを向けて告げると、その眼を患部へと向けて、手術を再開する。
しかし。
「あっ」
驚いた声をあげる。
「こっちも、下大静脈に腫瘍が浸潤してるじゃないか」
「ええっ」
海老名たんもそちらのほうに眼を向けた。
それからその視線があがり、問いかける。
「どうする?」
……いや、なんかもう、どっちが上司なんだか!
加地先生は答える。
「どうするもこうするも、下大静脈の腫瘍を切除して、人工血管で再建するしかないでしょう」
そのあと、海老名たんは頼りにならないと判断したのか、その眼を原先生に向ける。
「おい、原、手、貸せ」
しかし。
「え」
原先生は戸惑いの表情。
うわー、原先生も頼りにならないー。
「え、じゃねぇよ」
そう言い返す加地先生の隣で、阿智先生が言う。
「加地先生、ここはインオペ」
加地先生は阿智先生のほうを向き、言い返す。
「やめられるか」
そして、手術を続けようとする。
一方、原先生は海老名たんのほうを見る。
「海老名先生」
海老名たんは原先生に顔を向ける。
原先生は続ける。
「名誉ある撤退を」
そう薦められて、でも判断できない様子で、また天堂総長のいるほうを見あげる。
天堂総長は怖いぐらいの真剣な表情で無言でオペ室をじっと見ている。
答えを得られなかった海老名たんの視線はゆっくりと落ちていき、手術台の蛭間先生へ向けられる。
悩む海老名たん。
そのとき。
オペ室のドアが開いた。
だれかが入ってくる。
もちろん、未知子……!
そして、未知子は海老名たんと原先生のあいだから患部を見る。
「あーあー、こんなこったろうと思った。甘いんだよ、あんたら」
乱暴な口調で言いながら、海老名たんと原先生のあいだに割って入る。
「どいて」
腕で海老名たんと原先生を押しのけて、患者の近くまで言って、患部を見る。
……ええ、加地先生のちょうど向かいに来ましたよ!
「まずは、右半結腸・十二指腸部分切除」
そう未知子は判断をくだす。
それに対して加地先生は言う。
「なんだって? 膵臓を一緒に切らないのか? この腫瘍の位置なら、膵臓・十二指腸切除が標準術式だろ」
未知子はそんな加地先生の顔を見る。
もちろん、加地先生も未知子の顔を見てます。
患者の身体の上で見つめ合うふたり……。
いや、ぜんぜん甘い雰囲気とかじゃないですけど、この時点では完全ふたりの世界ですよね。他の先生、置いてきぼり状態ですよね。
「それじゃあ切りすぎ。このケースなら膵臓は温存できんの。少しは患者の身体のこと考えたら、ボケ!」
そう悪態をついたあと、未知子は海老名たんに手術器具の名称を告げるが海老名たんが反応しないので海老名たんから奪い取る。
そして、手術は再開する。
話を続きはいったん置いて……。
ここまで加地未知とはあまり関係がないようなシーンも細かく説明してきました。
それは、これから書く感想に必要だと思ったからです。
加地先生は蛭間先生の病室から一度でたあと「大先輩をオペ中に大量出血で死なせるわけにはいきませんからね」と言いました。
その大先輩である蛭間先生には退き気味の態度を見せてました。
三男と言われても、えっ、みたいな感じで。
それとは対照的に、海老名たんは蛭間先生に「神に誓って失敗いたしません」と言い、蛭間先生と指切りまでしました。
手術開始直前に、蛭間先生からオペを成功させてくれと頼まれて、海老名たんはうなずいていました。
阿智先生も蛭間先生から次男と言われて「御意」と言ってました。
そ・れ・な・の・に。
蛭間先生の身体の状態が予想以上に悪いとわかると、海老名たんは問いかけるという形であれ真っ先にインオペを言い出しました。
阿智先生も加地先生にインオペを勧めました。