かじみちつめ
狙われた腹腔鏡の魔術師
夜。
神原名医紹介所には所長の晶とフリーランスの医師たちがいた。ただし、未知子や博美はいない。
晶は看板猫のベンケーシーをなでながら、ふと思いついて、言う。
「うちも、あとひとりぐらい人材増やしたいわねぇ」
「でも、だれでもいいってわけじゃないだろ? 眼ぇつけてる人材、いるのかい?」
「そうねぇ……」
優秀な医師である紹介所の一員に問われて、晶は思案顔になる。
晶は情報通だ。
それに、未知子の師匠である彼の医者の技術に対する眼は厳しい。
少しして、晶は口を開く。
「腹腔鏡の魔術師、ほしいわね」
「ああ、加地秀樹」
「でも、あの先生、国立高度医療センターの外科副部長だろ。それやめてフリーランスにならないんじゃないか?」
「事実は小説よりも奇なりよ。予想もしなかったことが現実になったりするの。思わぬ突破口がひらけたりするのよ」
フリーランスの医師たちの視線を受けながら、晶はふふっと笑った。
加地は自分の部屋にいた。金に汚いとささやかれるだけあって、金持ちであり、住んでいるのも高級マンションだ。
ふいに、身を震わせた。
「どうしたの?」
同じ部屋にいる未知子が聞いてきた。ちなみに、ふたりきりである。
加地は浮かない顔で答える。
「なんか、急に寒気がしたんだ」
「え、なにか病気? 精密検査したら? 重病だったら、私がオペしてあげる」
「……なんで、おまえ、そんなに嬉しそうなんだよ。俺が重病だったらいいのかよ」
「私、失敗しないよ。知ってるでしょ? 大船に乗った気分で!」
「いや、そーゆーことじゃなくってさ」
言い返しながら加地は素の表情を見せている未知子のことをちょっと可愛いと思っていたりする。
もちろん、加地は晶から紹介所の人材として狙われていることを、未知子はその突破口だと晶から思われていることを、知らない。