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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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アジャニの炎

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「あの男は――」
 アジャニは呟いた。
「俺と同じ選択をするだろうか?」

 アジャニは夜空を見上げる。夜の大気を吸い込む。心を静め、思考を整理する。
 この世界の夜空は、神々の世界ニクスに通じている。
 星たちは輝く。星座たちが動き、新たな神話を繰り広げている。

 美しい、壮大な夜空だった。
 しかしその輝きは、このレオニンを祝福するものではないであろう。
 神々への、復讐を誓うこの男を。
 アジャニとて、願い下げだった。

 テーロスの神々の存在は、人々の信仰から成り立っている。
 いわば、彼らの存在は、人々の崇拝を薪として燃え上がる炎なのだ。

 だが、燃やすもののない炎は、消えるのだ。
 それがどれほど強大であろうとも。
 神々を直接殺すことは、できない。しかし、人々の信仰という薪を摘み取っていくことはできる。

 アジャニがこのメレティスに滞在して、四日目の夜。
 次の日もアジャニは、人々に語るつもりだった。
 神々の横暴を。太陽の神が友にもたらした、残酷な結末を。
 気まぐれな残虐などに奪われるべきでない、人々の幸福の権利を。

 アジャニは、夜空の果てを見据える気持ちで、思う。
 エルズペスのことを。 
 そしてサルカン・ヴォルのことを。

 夜空の果て、ニクスを越えて――多元宇宙のどこかに、あの男はいるだろうか。
 獰猛な怒りを胸に秘め、生き続けているだろうか。

 しばらくそうしているうちに、やがて、空が白み出した。
 夜空は青空に染まり、隠されつつあった。
 アジャニは、歩き出した。

 この天体の運行も、太陽の神の「御業」なのかもしれない。
 しかし、関係などない。日は沈み、日はまた昇る。
 テーロスに限ったことではない。
 アジャニは、プレインズウォーカーは、それを知っている。
 揺るがされなどしない。




 不動のアジャニは、友のマントの端を掴んだ。
 己の内の炎を、確かめるかのように。
作品名:アジャニの炎 作家名:炬善(ごぜん)