アジャニの炎
「あの男は――」
アジャニは呟いた。
「俺と同じ選択をするだろうか?」
アジャニは夜空を見上げる。夜の大気を吸い込む。心を静め、思考を整理する。
この世界の夜空は、神々の世界ニクスに通じている。
星たちは輝く。星座たちが動き、新たな神話を繰り広げている。
美しい、壮大な夜空だった。
しかしその輝きは、このレオニンを祝福するものではないであろう。
神々への、復讐を誓うこの男を。
アジャニとて、願い下げだった。
テーロスの神々の存在は、人々の信仰から成り立っている。
いわば、彼らの存在は、人々の崇拝を薪として燃え上がる炎なのだ。
だが、燃やすもののない炎は、消えるのだ。
それがどれほど強大であろうとも。
神々を直接殺すことは、できない。しかし、人々の信仰という薪を摘み取っていくことはできる。
アジャニがこのメレティスに滞在して、四日目の夜。
次の日もアジャニは、人々に語るつもりだった。
神々の横暴を。太陽の神が友にもたらした、残酷な結末を。
気まぐれな残虐などに奪われるべきでない、人々の幸福の権利を。
アジャニは、夜空の果てを見据える気持ちで、思う。
エルズペスのことを。
そしてサルカン・ヴォルのことを。
夜空の果て、ニクスを越えて――多元宇宙のどこかに、あの男はいるだろうか。
獰猛な怒りを胸に秘め、生き続けているだろうか。
しばらくそうしているうちに、やがて、空が白み出した。
夜空は青空に染まり、隠されつつあった。
アジャニは、歩き出した。
この天体の運行も、太陽の神の「御業」なのかもしれない。
しかし、関係などない。日は沈み、日はまた昇る。
テーロスに限ったことではない。
アジャニは、プレインズウォーカーは、それを知っている。
揺るがされなどしない。
不動のアジャニは、友のマントの端を掴んだ。
己の内の炎を、確かめるかのように。