アジャニの炎
アジャニが目を覚ましたとき、彼はメレティスの裏路地で横たわっていた。
背中から伝わる、白いタイルの感触。お世辞にも、いい寝心地ではない。
アジャニはしばらく、そのまま空を見上げていた。
左右の壁の隙間からみえる、星たちの輝きを。脈打つ夜空を。
だが、身体を白い外套が覆い、夜の寒気を凌いでくれていたのを思い起こした。
アジャニはそのマントを大切にかきあげながら、身を起こした。
そして、そのマントを背中に羽織った。
ここはメレティス。芸術性と気品に満ちた、哲学者と信託者たちの町。
そして……この世界は、テーロス。
広大にして深遠な、多元宇宙の次元の一つ。
夜空に生ける星座たちが脈打つ世界。
生けるエンチャント――破壊されざる魔力の具象である神々に支配され、秩序を保ってきた世界。
アジャニは、この世界を救った。
歓楽者ゼナゴス。不遜にも、この世界の神の一員となろうとし、その為にはいかなる犠牲や悲劇をも厭わなかった者の魔の手から。
そして、友を失った。
エルズペス。共に戦いしプレインズウォーカーを。苦楽を分かち合った友を。
この世界テーロスの長、即ち神々の長を自称する太陽の神ヘリオッドは、彼女を太陽の勇者として祭り上げていた。
しかし、太陽の神が、この勇者に与えたのは、しかるべき褒賞などではなかった。
理不尽な悪意と、心臓を貫いた光の刃だった。
目の前で。
その時の光景を、思い起こす。眉間に皺が寄せられ、口元から牙が覗く。
自身が先ほど見た夢を思い出したのは、その時だった。