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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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それに、あなたはガミラスがなんであるのか知っているはずだ。しかし地球の我々に教えることはできぬと言う。だが、あなたがマゼランから来たのであれば敵もまたマゼランにあることになりませんか? これはまるで、『子を返してほしければ指定の場所にひとりで来い』と脅す誘拐犯のようだ。この話には何か裏があるとしか……。

そんなことをサーシャに向かい言い立てた。しかし〈彼女〉は問いには応えず、『だからわたしはあなたがたを試していると言ったでしょう』と言うのみだった。どうなのです。落としたのは、本当に金と銀の斧なのですか?

あれは魔女だと藤堂は思った。しかし、鉄の斧だと言えば、聖母の顔を見せてくれたのかもしれない。そうしなければならないとわかっていながら、なぜあんな……だが結局、我々が出した結論はこうだった。サーシャがたとえ魔女であっても構わない。マゼランへ行く切符を受け取ろう。一時的な死を免れても意味はない。掴むべきは我ら地球人類の永久的存続なのだから――。

なんと愚かな……藤堂は思った。我らは誤った選択をした。『半年で戻る』と言ってサーシャが去って、そこで初めて〈彼女〉が約束を果たしてくれるなんの保証もないのに気づいた。あれはやはり池の女神だったのかもしれない。間違った答をする木樵には何もくれない存在なのかもしれない。おとぎ話の女神よりはるかにタチの悪いことに、『そうですかではこの鉄斧は捨てちゃってこちらの金と銀の斧を包んできてあげますから待っていてくださいネ』と言ってそれきりであるのかも……そんな話である可能性に気づいたのだ。

だからこの半年間、まるで体をネジにでもされたかのようだった。身をギリギリと捻(ねじ)られるような苦しみの中で、どうかどうかと祈る思いでサーシャを待ち続けてきたのだ。

沖田はその詳細を知らない。自分もまた沖田に話すのを禁じられている。だが、何も聞かずとも、沖田はおよそのところは察しているようだった。

「〈イスカンダル〉か」と沖田は言った。「アレキサンダー……その大王が戦いに身を投じていった理由も元は、『自分の国を護るため』と言うことでした。隣の国を我がものにすると、それを護るためまた隣を攻める。そこも落とすとまた隣を攻める……かつて日本が〈大和〉でやった戦争とまるで同じ話ですね。アレキサンダーはガンジス川の前まで行った。日本人は赤道を越えてニューギニアの山脈を見た」

「何が言いたいのだ?」

「辻政信という男の話です。その男は何から何までアレキサンダーそっくりでした。『国を護るためだ』と言って〈世界〉に対して戦いを挑む。敵を倒しても満足せずにその先にいる敵に挑む。戦い方もまったく同じだ。自(みずか)ら兵の先頭に立ち、槍を持っての一斉突撃。十倍の敵が矢を放って迎え撃ってこようとも、『決して怯(ひる)むな』と叫び立てる……戦場で傷を負うこと数知れず。アレキサンダーは32歳の若さで死に、辻政信は『戦場こそおれの行く場所』と言い残してベトナムに消えた。本当のところ、彼らは何を求めていたのか……」

「スタンレー」と藤堂は言った。「冥王星を君はそう呼んでいるな。あれは天の赤道で人を笑う魔女の星だと。最初にそう呼んだのは……」

「そう。あいつです。古代守だ。あの〈ゆきかぜ〉の艦長だった……あいつは、許されるのならば、自分の船に〈アルカディア〉と名を付けたいと言っていた。いつかもし、自分が〈外〉の宇宙に出て行けるとしたら、船には必ずそう名付けると言っていました」

「アルカディア……」

と藤堂は言った。アレキサンダーはギリシャ北部のマケドニアの王であり、アルカディアとはギリシャ人が想い焦がれた理想郷の名だと言う。

「そう、それだ。アレキサンダーも辻政信も、それを求めていたのじゃないか? 目の前の敵を倒した先に〈アルカディア〉がある。オレが皆を理想郷に連れていく。そのように叫ぶ男であったから、兵は後について行った」

「結果として日本はアジア諸国から恨みを買うことになりましたよ。辻は結局、自分が嫌った白人と同じことをしでかした。我らもマゼランの末裔だ。フィリピンの沖で最初のカミカゼが突っ込んだとき、フィリピン人は『いいぞいいぞ』と海にはやしたことでしょう。『アメリカ人も日本人もどっちも死ね。それでオレ達は肉が食える』と……当時の彼らにはアメリカも、スペイン人や日本人よりちょっとはマシと言うだけだった。フィリピン人が育てた豚を横から奪い、肉だけ取って、『お前らはこれでも食っていろ』と骨を投げつける。〈1911〉を見せつけて、『こいつは昔のやつと違うぜ』と笑いながら……そんなやつらだったのだから。マッカーサーは『アイシャルリターン』と言ったという。だが彼の約束する独立は、〈準植民地〉としての独立でしかない。フィリピンの民はそれをよく知っていた……」

「だろうな。しかし、そうだとしても、当時の日本はやはり間違っていたと思うが」

「ええ。戦地に辻を送った――辻ならばマッカーサーに勝つと信じて。〈スタンレーの山越え〉は辻の独断だったと歴史は言いますが、わたしにはそれは違うように思えます。本当の独断専行者は辻の上司の服部卓四郎(はっとりたくしろう)ではないか……」

「ええと」と言った。「確かそのとき、服部は、辻が天皇の名を騙(かた)り地図も作らずの作戦を始めたと知って驚いたのではなかったか? 服部が確認の電文を打って専行が発覚したのだろう」

「はい。もちろんその通りですが、わたしが言うのは意味が違います。服部に『〈リ号作戦〉は実行不能』という報告を聞く気があったとは思えない。裕仁(ひろひと)がスタンレーの山越えを強く望んでいたのは事実だったのだから……最初からたとえ無理でもやらす気で辻をラバウルに送ったのじゃないでしょうか。辻ならばスタンレーの向こうにいるマッカーサーを討つと信じて……だから辻の行為をかばい、上の者を説得した」

「辻は服部の意を汲んで行動しただけと言うのか」

「そう。そして本当の責任は、服部よりさらに上の者達にある……誰でも言うことですが、ノモンハンでの辻を許さずおいたなら、シンガポールやバターンの非道はなかったのですからね。昭和の戦争の最大の責任者は天皇でしょう。昭和裕仁が初めから、『自分は神ではない』と言っていたなら、国民が八紘一宇(はっこういちう)などという考えに狂うことはなかった。アジア諸国から百年間恨まれ続ける結果は避けられたはずなのですから……日本人はあの悪人を自(みずか)らの手で吊るすべきだった。だがそうせずに、最も愚かな欺瞞に逃げた。天皇陛下にはなんの責任もありはしない、悪いのは〈戦争そのもの〉だ、としてしまい、日本はむしろ被害者だから他国を踏みつけにしてもよい、という論法を作り上げた。それが憲法第九条だ。嘘を本当にするために自衛隊を無くそうなどと狂った輩が吠える国になってしまった」

「そして今、ガミラスに降伏せよと叫ぶ者らが国を荒らしまわっている……」藤堂は言った。「まわりくどい話はよせ、沖田。何が言いたいのだ」

「イスカンダル」と沖田は言った。「わたしが行く星の名をそう名付けたのはサーシャ自身でしょう、長官。違いますか?」