敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
「そちらの勝ちです。勝つ確率は2分の1だ。でももう一度続けて勝つのは4分の1。三連続は8分の1。四連続は16分の1。五回連続して勝つ確率は32分の1となる」
「ええまあ」
「戦闘機乗りが五機墜とせばなぜエースと呼ばれるか。これはつまり命を張った丁半バクチに連続して五回勝ったということなんです。テレビゲームで五を墜とすのは簡単ですよ。五百だろうと、五千だろうと、網でトンボ採るのと同じだ。だが実戦はわけが違う。自分の命を賭けなきゃならない。しかも、この作戦には、地球人類の運命がすべてかかっているという」
新見は応えなかった。加藤は言った。
「なのに、話があやふやだ。ダブルエース・トリプルエースの集まりならばひとりが3機墜とすのは楽勝だろうという考えで作戦を立てられては困ります。トリプルエースと言ったって、誰も決して一度に15機相手に勝ったわけじゃないんだ。1対1なら我々は敵に敗ける気はしませんよ。けれどもいくらおれ達が腕利き揃いで、〈タイガー〉の性能がいいからと言って、ひとりが一度にみっつの敵と渡り合えるというわけでは――」
と、そこにドアを開け、部屋に入ってきた者がいた。一同がそちらを向いて、何か急に変なものでも飲み込んだような顔になった。
「何?」
とその男は言う。黒いパイロットスーツに赤の識別コードをつけた男。古代だった。この管理室が大勢の者で一杯になっているのに驚いたらしい顔だった。しかもなんだかみんながみんな妙な眼で自分を見るのにたじろいだようす。
航空隊長古代進。この場にいちばんいなければならないはずの身でありながら、先ほどの会議の後でフラリとどこかに行ってしまって姿を見せないでいた男。それがこのタイミングで、またフラリと現れたのだ。武装のないオンボロ貨物機で3機のガミラス戦闘機を墜とした男。足枷付きの〈コスモゼロ〉で15に追われて逃げ切った男。
その男が、この場からまたどうやら逃げ出したそうな顔して言った。「どうかした?」
「いいえ」と山本が、一同の顔を見てから言った。「なんでもありません」
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之