敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
加藤は新見と南部の顔を見て思った。古代。本来ここにいて、このふたりと顔付き合わせなければならないのはおれではなくてあいつなのに、指揮官どころかてんでアマチュアときてやがる。あれをプロに鍛えるために時間をかけたら人類は滅ぶ。それもはっきりしてしまった。となると、一体どうすりゃいいのか。
「航空隊のパイロットは墜とされれば終わりです。脱出しても救助は難しいでしょうが……」
新見は航空隊員達の顔を窺うように言った。全員が『まあね』という表情で頷く。
「しかし〈ヤマト〉の艦内もです。戦闘になれば死者も出る。その補充ができないのも問題ですが、それ以上に厄介なのがケガ人を多く出すことです。すぐ治るケガならいい。ですが何ヶ月も動けなくなってしまう者がおそらくどうしても出てきます。しかしこの〈ヤマト〉では、港に寄って負傷者を降ろすことはできない」
「そう」と南部が言った。「だからと言って船の外に放り出すわけにいかないよな」
「ええ。〈死人が出る〉よりも〈ケガ人が増える〉ことの方がこの航海では支障となる。動けぬ者が二百にも三百人にもなってしまい、その看護に多くの人手を取られるようになってしまうと、船の誰もが身体的精神的に疲弊することになるでしょう。そこを敵に突かれたら〈ヤマト〉はおしまいです」
「ふむ」と加藤は言った。「そうなるのを防ぐためにも、交戦は基本的にやはり避けなければならないという……」
「そう。だから間違っても、ゲームの主人公みたいな士官が艦橋の真ん中辺りに立って、敵を見ては戦おう戦おうと言うようなことがあってはならない。この〈ヤマト〉の戦闘指揮を取る者は、それがわかっていなければならないわけです」
「ふうん、無茶はいけない、か」加藤は言った。「クルーには死ぬよりもケガされる方が困るから……」
しかし、何よりまず古代だ。〈ヤマト〉は明日にも太陽系を出なければならない。冥王星も迂回できない。となれば、古代を今日一日(きょういちにち)でプロにしなければならないという話になってしまうが……。
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之