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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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インテリジェント・デザイン



「これが採取に成功したガミラス人の遺伝子データです。詳しい分析はこれからですが、それでもちょっと見ただけでも、地球人とよく似ているのがわかります」

と生物学を専門とする部員が言う。しかし真田は〈データ〉とやらを見せられても、

「そうなのか?」

とまずは聞くしかなかった。生物学や遺伝子学は専門外だ。横で斎藤も《オレだってチンプンカンプンですよ》という顔してる。

〈遺伝子データ〉なるものは門外漢の真田にはまるで楽譜のように見えた。それもオーケストラによる交響曲の、ジャカジャカジャーンというようなやつだ。見方を知らない人間にはまったくもって何がなんだかわからない。こっちがガミラス、こっちが地球。似てるでしょうと言われても。

「まず、似ているのはこの部分です」と生物学員。「地球生物のDNAが四つの塩基から成る二重螺旋構造をしているのはご存知かと思いますが――」

「まあな」

「ガミラス人の遺伝子も基本構造は同じでした。染色体の数や長さは違いますが……」

言って参照の表を出す。染色体の数はヒトが46。アリが2本で犬が78だと言う。しかしザリガニが200とあった。全部繋いだ長さもマチマチで、数が多ければ偉いとか長ければ進化してるというものでもないらしいのがわかる。

「地球の学者に何も教えずこれを見せても、異星生物の遺伝子だと気づく者はいないでしょうね。しかし〈ヒト〉だと思う者もいないでしょう。チンパンジーとヒトの遺伝子は99パーセントまでそっくりだと言われますが、その点ではまるで似ても似つきませんから」

「ふうん」

と真田は言った。なるほどおれなど、ヒトとヒトデの遺伝子を並べて見せられたとしてもまるでサッパリ見分けはつかないだろうと思う。ついでにショパンのピアノ曲とバッハのヴァイオリン曲の譜面を並べて見せられたって絶対にどっちがどっちかわからないと自信を持って断言できる。それと同じで、人と猿が99まで似てると言われても、どこがどうそっくりなのかてんでわからん。地球人とガミラスでも、どこが似ていてどこが違うと説明されてもまるきり理解できないのは疑いなかった。

しかし、それとはまた別に、思い当たることがあった。

「確か、同じようなことを、サーシャの遺伝子の話でも聞いたように思うが」

一年前に聞いた話が、ずいぶん昔のように思える。サーシャはかつて沖田の〈きりしま〉の前に現れたとき、まず厳重に隔離され入念な検査を受けたと真田は聞いたことがあった。理由のひとつは地球の細菌によって彼女が死んだり、逆に彼女が持ち込む菌で地球人がやられるのを防ぐためだが、その過程で血液や遺伝子のサンプルを採られ、体もCTスキャナーなどで調べられているのだ。結果として出た答が、やはり、『地球人と遺伝子レベルで似ているが違う』。

というような話だった。細かなことは真田はやはり聞いてもよくわからなかったが。

「そうですね。サーシャ――イスカンダル人とも似てはいるようですが」

「まさか……」と言った。「ガミラスとイスカンダルが同一のETということはないだろうな」

「え? いやあ、それもないと思いますが」

言って部員はサーシャのデータを画面に出した。やはり真田にはそれが地球やガミラスとどこが似ていてどこが違うかまるでわからない。

しかし、前から考えていたことではあった。サーシャはとにかく外見は地球の女そっくりだった。ならばガミラスも地球人と似ていることが有り得るのでは、と――それどころか、イスカンダルとガミラスが同じものだということさえ、ひょっとしたらあるかもしれない……。

真田はそう考えていた。サーシャはどうしてイスカンダルが地球人類の危機を知り、自分が遣いとして来たか聞いても教えてくれなかった。『ワタシからは教えられない。しかしイスカンダルへ着けばわかるだろう』とだけ言って――。

ガミラスについても同様だ。多くのことを知っていたに違いないのに教えてくれない。『教えるのをワタシは禁じられている』と言われてしまえばそれまでで、やはりすべては『イスカンダルに着けば』と言う。『それはあなたがた地球人が、自分で行って眼で見て知らねばならないのです』と……。

しかしそんな話になるのは、イスカンダルとガミラスがどこかで繋がっているということにならないか。遠く離れた星雲から地球を見つけたのだから、ガミラスだってどこにあるのか知ってるはずだ。やつらがなぜ地球を狙うかも知っている――。

波動エンジンの技術は渡すがコスモクリーナーは渡さない。欲しくば取りに来いと言う。この話がそもそも変だ。しかも許すのは一隻だけで、ワープ船を複数は決して造らせないようにする。これでは地球は〈試されてる〉と言うよりも、〈運命をもてあそばれてる〉と言うのが正しくなってしまう。

これは決して博愛の星のやることではない。地球人を救ける気など実はまったくないのじゃないか……そんな疑いさえ持ってしまいそうになる。

ゆえに真田はただ信じるしかなかった。イスカンダルでなく、サーシャをだ。あのとき、〈ノアの方舟〉で、地球人類だけでなく動物達も救うために戻ってくると約束し、命懸けでそれを果たしてくれた彼女。彼女がすべてを知った上で、なおも己の命を懸ける価値があると考えたなら。

それは信じるに値する。とにかく、おれ個人としては――そう考えるしかなかった。彼女のためにもおれはイスカンダルへ行き、答を眼にしなければならない。

が、まずは当面のことだ。地球。ガミラスとイスカンダル。どれも〈星人〉の遺伝子構造は基本的に同じだと? ゲノムの長さや染色体の数は違うが、みっつとも、DNAの二重螺旋?

「部分的には、チンパンジーとヒト以上に似ていると言えるところまでありますね。サーシャの遺伝子を調べたときにも言われたことですが、人を〈ホモ・サピエンス〉として猿やその他の類人猿と分ける部分に関して言えば、このみっつはほぼ同一と言っていいくらいに似てます」

と生物学員は言った。真田は斎藤に眼を向けてみた。この男も学者と言っても機械屋であって、遺伝子なんてオレにはてんでわかりませんよという顔をしているが、

「確かにそんな話は聞いていたけれど、イスカンダルに続いてまたガミラスも、我々と同じく〈ホモ・サピエンス〉か……」

「そんな」と真田は言った。「みっつとも違っているのにそこは同じ? そんなことが有り得るのか?」

「偶然には有り得ませんね」と生物学員は言った。「でも、偶然じゃないとしたら?」

「どういうことだ?」

「ですからまあ、何かの意思が働いているんじゃないかということです。キリスト教では言うでしょう、『神は自分に似せて人間を造った』と――ならばガミラスやイスカンダルもそうだってことはないですかね?」

「それって――」真田は言った。「〈インテリジェント・デザイン〉とかいう話か?」

肩をすくめた。「まあ、ほんとはそういうの、おれは否定しなきゃいけない立場ですけどね」

「創造論が実は正しいと?」

「銀河系の生命に関する限り、ということですが……」