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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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小展望室



艦橋の裏、第二艦橋作戦室の通路を挟んだ反対に、〈ヤマト〉は小さな展望室を備えている。四半球のドーム窓から後方を眺めるその小部屋を、会議の後で古代は見つけてひとりで入った。

暗黒の空に散りばめられた星の光。見えるものはそれだけだ。天の河が帯となって流れている。探してみれば大マゼラン星雲とやらも〈南天〉の空に肉眼で見つけることもできるはずだが、しかし、〈南〉はどっちだろうなと思った。

〈南〉もしくは〈南天〉と言うのはもちろん地球の南半球で見える宇宙ということだが、この窓は今そもそもどの方角を向いているのか。天の河を指でたどればおおいぬ座のシリウスが見つかる。そこからりゅうこつ座のカノープスを探す。このふたつが太陽系で見える最も明るい星で、その先にボンヤリと小さな雲のようにあるのが、この〈ヤマト〉という船が目指す大マゼラン星雲。天の河銀河のまわりを二十億年かけてまわるという子供銀河――。

しかしそいつは、今この窓から見えるのか? これが〈北天〉に面しているなら、日本からは決して見えないのと同じく見えない。マゼランが〈天の南極〉近くにあるのは宇宙船に乗る者ならば常識だ。だいたい、そもそも、その昔にマゼランという船乗りが南の海で見上げていたからその名が付いているんだろうから、とにかく〈南〉を向いているなら探せるはずと思うのだが……。

パイロットとして五年も宇宙にいるのだから星の見方を知ってはいるのに、どうやら機器に頼るクセが付いてしまっているようだった。何かガイドになるものはないかと古代は部屋を見回した。

窓枠に何やら装置のパネルを見つける。しかしまったく使い方がわからない。適当にいじっていると急にフワリと体が浮く感覚があった。あれれ、と思う間もなく靴が床を離れる。

「わわわ」

と言った。どうもこの部屋、床の人工重力を消せるようになってたらしい。そのスイッチを知らずに入れてしまったのだ。

そのまま上へ。星空へ飛び上がっていくような、それとも頭から落ちていくような感覚。無重力など別に珍しい体験でもないが、そのまま窓を突き抜けて宇宙へ投げ出されそうな気がして、古代は軽い恐怖をおぼえた。

ガラスに当たる。その瞬間、心臓が止まる思いがした。この窓がパリンと割れたりしたらどうする?

しかし、もちろんそんなヤワな造りのはずもなかった。古代の体は透明な壁にハネ返された。そうしてフワフワ宙を漂う。手足をバタつかせてみるが、空気を掻いて泳ぎ進むというわけにもいかない。

だがそのうち床か壁に行き着くはずだ。それまでこうして星を眺めているしかないか――と思ったときだった。「きゃっ」という叫び声を背中に聞いた。クルーがひとり、今この部屋に入ってきて、中が無重力であるのに驚いたらしい。

空中でも身をよじることはできる。振り向いた。女がひとり、髪を振りつつこちらに飛んでくるところだった。

もう少しでぶつかりそうになりながら、ギリギリのところですれ違う。顔と顔とが一瞬だけ近づいて、その相手と眼が合った。見知った顔――船務長の森雪だ。

手を伸ばしてくる。気がついて、古代はその手を掴もうとした。しかし妙な回転がついてしまっていて空(くう)を切る。

森は右手左手とこちらに向かって手を出してくる。古代は慌ててその手を捕まえようとする。やっと互いに手を握り合った。古代は森に引っ張られるようにして、ドームの天井にぶつかり止まった。

森と顔を見合わせる。外の宇宙がよく見えるよう、展望室の照明は暗く抑えられていた。見開いたふたつの瞳に自分の顔が映り込んでいるのが見えた。

森は古代にしがみつくように手を握ったままだった。それにハッと気づいたらしく、慌て気味に手を離す。

古代は手を引っ込めた。しかしふたりで宙に浮いているままだ。森はドームのガラス面を手で押して、髪をなびかせ降りていった。

古代は続く。床に着地したところでまた眼が合った。しかしなんだか、その目が吊り上がっているようだ。森はフワフワ広がる髪を押さえながら、「な、なんで……」と声を出した。

「なんで重力切ってるのよ!」

「いや、それが……」

「戻すわよ、いいわね!」

「うん」

森は装置に取り付いて、パネルを指で操作した。人工重力が戻るとともに、森の髪もパラリと垂れるが、彼女は気にした表情で頭に手をやっている。

窓に映る自分を見て髪を直した。元より宇宙軍艦乗りは、女と言えども決してそう長くは髪を伸ばさない。理由のひとつは言うまでもなく船外服のヘルメットを素早く被れるようにするためだ。この彼女もピンでまとめる必要などないギリギリの長さにしているようだが、もうひとつは今このように、いつなんどき無重力の状態に置かれないとも限らないから――そのときに髪を長くしていたらとても容易(たやす)いことでは済まない。古代は笑ってしまったが、そこでキッと睨まれた。

「えーと、その……ごめんなさい。おれ、出てくから、後はどうぞ」

「別にいいけど」肩をすくめた。それから古代の方を向いた。「あの……」

「はい?」

「その……タイタンのこと。どうもありがとう」

「は? ええと、何かしましたっけ」

「コスモナイトよ。あなたが運んでくれなければ、いろんなことが無駄になってた」

「ああ、まあ、それが任務だから」

「そうだけど……もしかしたら冥王星……」

また窓の外を見る。古代はかなり逃げ出したかった。この女はどうも苦手だ。まったく間の悪いところで出くわしたもんだと思う。

「まさかとは思うんだけどね、あんな作戦……でも、もしやるとなったら……」

この女とこの部屋に一緒にいるよりいいかもなあ。「まあ、任務だから」と古代は言った。

しかし考えてみた。冥王星攻略作戦。航空隊の〈ゼロ〉と〈タイガー〉が核を抱いてあの星の白夜の圏を手分けして基地を探して攻撃する? とても正気とは思えない。そんな作戦が成功するのか。いや、うまくいったとしても――。

森は言った。「成功しても、航空隊の損耗は避けられない。あなただって死ぬことになるかも……」

「そりゃまあ」

じっと見られた。ほんとになんなのかと思う。これは戦争なのだから、行けと言われりゃイヤとは言えない、とでも言うつもりなのか。そんなことはわかっているが、こんな女に『立派に死んでこい』なんてこと言われたくない。しかしとは言え、この彼女、作戦には反対なんじゃなかったのか。

「あたし、あの作戦は、無茶だとは思うんだけど……」

「はあ」

「それでも、冥王星をこのままにして太陽系を出てっていいと思っているわけじゃあないの。ガミラス基地は叩けるのならやはり叩いていくべきだし……」

「はあ」

「あたしがそう思うのは、ひとつには〈ガミラス教〉の問題よ。地球では今、ガミラスを神の使いとする宗教が勢力を増しているでしょう。テロや暴動を起こしたり、勧誘に乗らない家に放火したりと、どんどん危険な存在になっていってる。〈ヤマト〉が戻り着く頃にはどんなことになっているか……」

「はあ」

「これ以上信者を増やすべきじゃない。カルトの害を抑えるためなら、多少遅れを出すことになっても〈スタンレー〉は潰していくべきだと思う」