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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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「そうだ。今のままならば、地球はあと半年もたん。水の汚染を待つまでもなく人類は自滅する。人間同士の不和によってだ。地下の人々は絶望している。もう地上には戻れぬものと思っている。それが滅亡を早めるのだ。市民に希望を与えるには、〈ヤマト〉の力を見せねばならん。波動砲で冥王星を吹き飛ばす。それを見せねばならぬところまで、地下都市社会は来てしまっているのだ。だから軍は、今日のあの発表をした……そうだ。わしは事態がこう進むだろうと知っていた」

「波動砲を使わなければ、地下の市民に〈ヤマト〉の力を見せられない……」新見が言う。「それでは滅亡まで半年……それを〈一年〉に戻すには、〈スタンレー〉を撃つしかない。だから無理にでも撃てと……」

「そうだ」と沖田。「軍は〈ヤマト〉にそう言うしかなくなるのだ」

「〈ヤマト〉に直接言えないから、代わりにあの発表をしたと?」

新見の言葉に沖田が頷く。そこで相原が、

「待ってください。地球の地下には波動砲を使うのに反対する者がいます。その勢力がテロを起こし、内戦に発展しようとしている。なのに〈スタンレー〉を撃てば……」

「テロの激化を招く。その通りだ。しかし政府と言うものは、テロに決して屈さぬ姿勢を見せねばならぬものでもある。だからやはり、それがどんな結果を招くか知っていても、冥王星を吹き飛ばすと衆に言わねばならんのだ」

「艦長はそれも……?」

「そうだ。わしは見通していた――いや、わしが、そうなるように仕組んだのだ。事がこのようになるのを狙って、あのとき空母に波動砲を撃ったのだからな」

「え?」

と南部が言った。地球を出てすぐ行われた試射。いかに超大型とは言え、空母一隻沈めるのにエネルギー充填120パーセントの全出力。あのとき、沖田は、敵に対する示威を兼ねるものだと言った。地球人類が波動砲を持ったのをガミラスに知らしめるためである、と。しかし本当は――。

「それじゃ……まさか、『示威』と言うのは……」

「そうだ。敵だけではない。地球に残る人々にも、この〈ヤマト〉に波動砲があるのを見せるために撃ったのだ。だからあのとき言ったろう。これは市民に希望を与えるためでもあると。波動砲が冥王星を撃つためだけの武器というのは誰でもわかる。こんな兵器は他に用があるはずないのだ。わしは地下の人々がそれに気づくようにした」

「え?」と今度は新見が言った。「でも、波動砲は……」

「致命的な欠陥があり、本来の用に使えない。その通りだ。試射はそれを確かめるだけになるとわかっていたが、承知のうえでやったのだ。わしは地球の地下都市市民に、〈ヤマト〉は冥王星を吹き飛ばしたのち外宇宙へ出ていくものと思わせようと考えた――それが発進してすぐに、波動砲を撃った理由だ」

「そんな。実際には撃てないとわかっているものを、撃てると見せかけようとしたとおっしゃるんですか?」

「そうだ」

「なぜ? 降伏論者のテロが激化して、内戦になるのも知っててやったと言うんですか? これでは人は半年もたずに自滅するのに……」

「いいや」と沖田は言った。「そうはならん」

「は? ですが――」

「そうはならんよ。テロリストどもは『冥王星を撃つな』と言って人を殺してるんだろう。だが〈ヤマト〉で〈スタンレー〉は撃てんのだ。波動砲を使わずにガミラス基地だけを叩けば、狂信徒は主張することがなくなる。その後から『〈ヤマト〉を待つよりやはりガミラスに降伏しよう』などと言って、誰が耳を貸すと思う?」

「う……」

とまた新見が言った。敵を撃滅した後でその敵に降伏しようと唱えて聞く者がいるか。

「テロはグズグズになって終わり、内戦も回避される、と……?」

「そうだ。わしはそう見ている」

「待ってください。しかし、なぜです!」と、今度は島が言った。「なぜ、撃てない波動砲を撃てるように見せかけなけりゃならないんです! 〈ヤマト〉が早く太陽系を出ていれば、軍はあんな発表をしようとしてもできなかったはずです。〈ヤマト〉一隻で〈スタンレー〉と、波動砲なしでどう戦うと言うんですか! 勝てる見込みがあるんですか? 必ず勝てる保証でもあると言うなら別ですが、でなきゃこんなバクチみたいなことはするべきじゃないでしょう!」

「島」と真田が言った。「ちょっと言葉が過ぎるぞ。艦長に対してそんな口は――」

「いや」と沖田。「いい。機関長、あんたはどう思うかね」

「ふむ」と徳川が言った。「言わせてもらうが、島の意見に賛成だな。波動砲が使えるのなら、〈スタンレー〉に行くことに誰も反対などしない。しかしこの〈ヤマト〉が沈めば、地球人類も終わりとなるのだ。艦長、それがわかっていてなおも戦うと言うのかね」

「そうだ」

「それは無謀ではないのか? この〈ヤマト〉は戦う船ではないはずだ。そもそも最初の計画からして、波動砲が使えぬのなら〈スタンレー〉は迂回してすぐマゼランへ行くことになっていたのだし……」

「ああ。しかし今では軍が〈ヤマト〉は敵を叩くと言ってしまった。ここで迂回したならば、人々はもう今度こそ、決して〈ヤマト〉を信じなくなる。イスカンダルの話など元々全部嘘だったのだと言うだろう。そのときこそ人類の終わりだ。たとえ半年で戻ったとしても間に合わん。そもそもすでに一年前から女は子供を産まなくなっているのだからな。その意味ではとっくに絶滅しているのだよ。人が勝利を信じなくなった日こそが〈滅亡の日〉だ」

「ですが……」と島。

「いいや、そんなことにはさせん」沖田は言った。「もともと、道はひとつしかないのだ。それが〈ココダの山道〉でもな。この〈ヤマト〉一隻で、波動砲を使わずに、〈スタンレー〉を叩き潰す。できぬなら人が滅ぶと言うのであれば、たとえ無茶でもやらねばならん。〈ヤマト〉が沈めばすべてが終わる。わかっていても、イチかバチかに賭けねばならん。島よ、お前の言う通りだ。これはバクチ作戦だ。しかしそれでも、これはやらねばならんのだ」

「そんな……」

と島が言った。他の者はみんな黙り込んでいた。沖田の気迫に呑まれたように棒立ちになっている。

「島よ」と沖田はまた言った。「確かに、無理であるのなら、〈スタンレー〉は迂回すると言うのが最初の計画だったな」

「はい」

「しかしそもそも、どうしてそんな話になっていたと言うのだ? 今や地球は女を選別し始めている。エリート達は1パーセントの女だけに飲ませる水を確保しようと考えている。それで〈ヤマト〉が十三ヶ月で戻ったとしても、百万くらいは子供を産める女が残っているかもしれない。だがそれでどうなると言うのだ? 滅亡を止める役に立つのか?」

「それは……」

と言った。太田を見る。沖田の言葉は、さっき自分で太田に言った島の考えそのままだった。そうだ。わかっていたのだった。人類滅亡を食い止めるには、子供達を〈千万〉から〈億〉の単位で救わねばならない。太田だけでない。誰に対しても島はそう言い続けてきたのだ。