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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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わたしの親は、ガミラスが来る前からそうだった。幼い頃から聞かされてきた。この世界が滅びる日が待ち遠しい。早く来てくれないかしらね。ユキ、あんたもそう思うようになりなさい。世間のバカな人間も、汚らしい動物も、全部死んで構わないのよ。

子供は親を見て育つ。親がそういう人間ならば、子供はそうかと思ってしまう。小学校に入るまで、親の話を森は信じて疑わなかった。伝道、伝道、伝道の日々で、家のテレビのリモコンは幼児の手では決して届かぬ高さのところに置かれていた。アニメや子供番組の類はそもそも見たこともなかったし、そういうものがあるということ自体を知らなかった。森は親に洗脳された。この世に生きる多くの人は堕落している。だから救う価値はない。あなたは選ばれた者だけを神の下に連れて行くのよ。

その声が、今も頭の中で聞こえる。星の海に父と母の顔が浮かぶ。ユキ、いつまでそんなこと続ける気だと言っている。お前もそろそろわかったんじゃないのか。人類なんか絶滅していい存在だということが……なのにどうして救おうとする。無駄なことはやめなさい。

ユキ、お前は間違っている。認めろ。これは悪魔の罠だ。お前にとって地球が一体なんだと言うのだ。そこをよく考えてみろ。

地球はお前が命を懸けるような星なのか? 人類が堕落しきっていることはお前も認めてたんじゃないのか。お前が同朋と思うのは〈ヤマト〉のクルーだけなんだろう? だったら、それでいいじゃないか。マゼランなんか行くのはやめて〈ヤマト〉で仲間達だけの星を見つければいいじゃないか。だから〈ジャヤ〉に挑むのもナシ……。

そう語るのは、もはや父と母ではなかった。もうひとりの自分だった。窓ガラスに自分が映り、宇宙に顔が浮かんでいるように眼に見える。その自分の顔が言う。そうよ。それで何が悪いの。人類がここで滅んだとしても、それは自業自得じゃないの。本当ならあと十ヶ月子供が産めた。それを半分に縮めたのは、自分達でしてること。どうしてその面倒を〈ヤマト〉が見なきゃいけないの。あたしがその責任を代わって負わなきゃならないの。あたしは悪くないわよねえ。悪いの全部人類よねえ。これについては、ガミラスもたいして悪いと言えないわ。あたしの父と母のような狂信者を放っておけば、やがて凶悪な民兵化して地下都市内に内戦を起こす。そんなのわかっていたはずなのに何もしなかった政府が悪い。そんな政府の弱腰を許していたひとりひとりの市民が悪い。今だって、ガミラス教徒や降伏論者は全体の一割すらもいないはず。残り九割の九億人がテロに敢然と向き合えば、軽く負かせるはずなのに。

なのに立ち上がろうとしない。みんなあきらめてしまっているのよ。どうせ何をやっても無駄だ、水の汚染は止められない、地上へなんか戻れない――そう考えてしまっているのよ。

〈ヤマト〉のことも、船一隻で何ができると思っている。波動砲なんてものがあるなら、冥王星を吹き飛ばせもするのだろう。しかしそれでどうなるのだ。〈イスカンダル〉。〈コスモクリーナー〉。そんなのアテにできるものか。〈ヤマト〉なんて冥王星を撃つだけ撃って、後は逃げるに決まっているさ。

みんなそういう考えでいる。人類は、たぶんとっくに滅亡してしまっているのよ。今日や明日や半年後、一年後の話ではなく、最後のひとりが死ぬだろう十年先の話でもなく、もう一年も二年も前に。ガミラスに勝つのをあきらめ、降伏もせず、ただ死ぬのを待とうと人が決め出して、誰もがそうなってしまったときに……だからとうとう事態がここまで進みながら、カルトと戦おうとしない。家にこもってテレビゲームをしているか、酒や麻薬に溺れているか。自分の家に火をつけられても、逃げもせずそのまま焼かれていくんでしょう。

地下市民の多くはそうなってしまったのよ。なのにどうしてこのあたしが戦わなければいけないの。

そう思った。今の地球に〈ヤマト〉のクルーが命を懸ける価値があるのか。〈スタンレー〉で勝てるかどうかわからないなら、いっそ逃げるべきなんじゃないか。

そうよ、と思った。逃げるべきよ。人類なんか見捨てて逃げてしまいましょう。〈ヤマト〉のクルーだけの星を見つけましょう。そこであたしが子を産めば、人は存続するじゃあないの。父親にはあたしの父さんなんかとは全然違う人間を。狂った考えなんかには決して取り憑かれたりしない、〈ヤマト〉のクルーの中でも特に優秀で、頼りになる人間を。どんな状況に置かれても決して逃げたりあきらめたり、仲間を見捨てたりしない。たとえ櫂(かい)で漕いででも船に宇宙を進ませて、地球に戻り人々を救い出してくれるような……。

と、そこまで考えたところで『あれ?』と思った。変ねえ。今、どこかで考えが狂ったような。そもそも何を考えてたんだろ……ええと、男のことだったっけ。ははは、あたしは一体何を……。

まったく、何を考えてるのか。どうかしてるな。そう思って首を振り、窓に背を向け展望室を出ようとした。ドアを開けると、ちょうど中に入ってこようとする者がすぐそこにいて衝突しかけ、森は面喰らわされた。

相手も同じだったらしい。森を見て驚いた顔をする。

古代進だった。