伊角の碁
伊角慎一郎という人1
人を好きになった時がいつか、だなんて、誰が分るんだろう?
仕草ひとつ、言葉ひとつに、「ああ、この人が好きだな」と思うことはあっても、恋に落ちた瞬間を決めることなんてできない。
「伊角さんは、オレのどこが好きになった?」
首を傾げて和谷は問う。
「んー、どこって決められないよ」
伊角は笑う。
「和谷の前向きなところは好感が持てるけど、無鉄砲すぎるなって思うこともある。一言では言えないし、好き嫌いは表裏一体だろ?」
それは確かにそうだ。和谷は頷く。
伊角の包容力に救われることもあれば、子ども扱いしすぎる点がむかついて仕方ないこともある。
「……でも、そうだな。和谷の目が、好きだな、オレ」
「目?」
「そう。一番和谷らしいと思う」
目は口ほどにものを言うから。こっそり伊角は笑う。
激情を隠すことのない和谷。
それは自分には真似の出来ない、和谷の良いところでもあり悪いところでもあるから。
そんな伊角を見る、和谷の目は優しい。