伊角の碁
Love Love
空を見上げれば、ただ青い空。
そんな空間で生きていたいと、いつも思う。
「和谷らしいな」
そんなことを言えば、いつも誰もがそう言って笑う。
俺もその通りだと思う。
ただ、そんな中でも色々どろどろとした感情だってある。
たとえば、同じ門下の進藤と実力をあからさまに比べられたとき。
たとえば、高校に行ってないことが犯罪のように言われたとき。
ムシャクシャするし、腹も立つし、殴りかかりたくもなる。
事実だったり偏見だったり、色々あるけれど、そんな些細なことで一喜一憂する。
馬鹿だなぁと思うけど、どうにもならない感情。
もてあまし気味なこの心は、もちろん表になんか出せない。
出したら、そこで俺は負けだと思ってる。
なんてことを、伊角さんが買ってきたビールを飲みながら喋ったことがある。
アルコールは、一人暮しをはじめてから覚えた。伊角さんは困った奴だと溜息をつくけど、自分だって未青年なんだから説得力があろうはずがない。
二人、何局か打って検討して、飯を食って、駄弁って。
そんなときに伊角さんはいつも笑って言う言葉がある。
「和谷がいいと思うことをしたらいいよ。他人の言葉なんて、どうでもいいだろ?」
とてもありがちな言葉だけれど、この人はちゃんと分かってくれている。そんな安心感をくれる言葉。
だから、俺は自覚する。
「伊角さん、好きだな…」
ビールを飲んで、笑って言う。
一瞬きょとんとした顔が、ゆっくりと崩れる。
「ああ、俺も和谷のことが好きだよ?」
でも、伊角さんは知らない。「好き」の本当の意味を。
ただ、焦ることはないと、俺は知ってる。
だって、俺も伊角さんも、一生、同じ道を歩む確信があるから。
だから、ゆっくりと育てよう。
俺がいいと思うことを、この気持ちを。
いつか、伊角さんにも自覚してもらえるように。