王宮のソナタ
私の双子の弟、カインが、実は造られた存在だということは、私以外にジークしか知らないことだった。そして、他の誰にも知られてはいけない秘密。
生まれたばかりで赤子同然のカインを、事故による記憶喪失ということにして、このローデンクランツの国王にする為に一年という期間が設けられ、五人の教育係が付けられた。一般的な学問について教えるのは、ジーク。国王として執り行う様々な行事しきたりについて、アストラッドが。最低限の武術や剣技をヴィンセントが指導し、王族としての立ち居振る舞いをリオウから教わった。そして人の上に立つものとして必要な帝王学をエドガーから学ぶ。さらに、街で知り合ったロデルという少年が、人との会話に慣れていないカインの相手をしてくれるようになって、それらは砂漠に水を撒くようにカインに吸収されていった。
半年もすると無表情だったカインが、時折笑顔を見せてくれるようになって、私は姉というよりも母のような気持ちで、カインの補佐を続けていた。
何があってもカインを立派な国王にしてみせる。カインの変化を目の当たりにする度に、そんな決意を抱く。そう、自分に何があっても……。
あれは、王国建国祭の前日。これまでのカインの様子とカインを教育するという今の状態を訝しんだエドガーから、そのカインを盾に関係を迫られた。エドガーはカインに次ぐ王位継承者で、実力も王宮内での影響力ある。亡き父上が驚異に思う程、彼の思想は激しく、彼がその気になれば、容易くカインの秘密を暴いてしまうだろう。カインを失うことを何よりも怖れる私に、そこから逃げるという選択肢があるはずもなく、私はエドガーの言うままに、身体でもって彼を味方にする以外に方法が無かった。
その後、建国祭でカインの暗殺騒ぎがあり、犯人が教育係の一人、リオウであったことから、王宮内はしばらく騒然としていた。警備兵が増え、私も一人で出歩くことを控えた。リオウの担当分をジークとアストラッドが引き受け、再びカインの教育が始まった。日々はそれまでの形に戻ろうとしている。
だけど、私の心の傷は癒えることなく、またエドガーとの関係もぎこちないままであった。
生まれたばかりで赤子同然のカインを、事故による記憶喪失ということにして、このローデンクランツの国王にする為に一年という期間が設けられ、五人の教育係が付けられた。一般的な学問について教えるのは、ジーク。国王として執り行う様々な行事しきたりについて、アストラッドが。最低限の武術や剣技をヴィンセントが指導し、王族としての立ち居振る舞いをリオウから教わった。そして人の上に立つものとして必要な帝王学をエドガーから学ぶ。さらに、街で知り合ったロデルという少年が、人との会話に慣れていないカインの相手をしてくれるようになって、それらは砂漠に水を撒くようにカインに吸収されていった。
半年もすると無表情だったカインが、時折笑顔を見せてくれるようになって、私は姉というよりも母のような気持ちで、カインの補佐を続けていた。
何があってもカインを立派な国王にしてみせる。カインの変化を目の当たりにする度に、そんな決意を抱く。そう、自分に何があっても……。
あれは、王国建国祭の前日。これまでのカインの様子とカインを教育するという今の状態を訝しんだエドガーから、そのカインを盾に関係を迫られた。エドガーはカインに次ぐ王位継承者で、実力も王宮内での影響力ある。亡き父上が驚異に思う程、彼の思想は激しく、彼がその気になれば、容易くカインの秘密を暴いてしまうだろう。カインを失うことを何よりも怖れる私に、そこから逃げるという選択肢があるはずもなく、私はエドガーの言うままに、身体でもって彼を味方にする以外に方法が無かった。
その後、建国祭でカインの暗殺騒ぎがあり、犯人が教育係の一人、リオウであったことから、王宮内はしばらく騒然としていた。警備兵が増え、私も一人で出歩くことを控えた。リオウの担当分をジークとアストラッドが引き受け、再びカインの教育が始まった。日々はそれまでの形に戻ろうとしている。
だけど、私の心の傷は癒えることなく、またエドガーとの関係もぎこちないままであった。